中小企業専門雑誌に記事が掲載されました

近代中小企業10/1号に、杉浦弁護士、岬弁護士共同執筆の「契約書の意義と使い方」記事が掲載されました。
以下、掲載内容です。

契約書の意義と使い方

しっかりとした「契約書」は会社と経営者を確実に守る

弁護士法人名古屋総合法律事務所
弁護士 杉浦 恵一
弁護士  岬 宏美
URL http://nagoyasogo.jp/

取引先と契約書を作成する際に、「普段使っている書式だから」「信用できる取引先だから」と、契約書の内容をよく読まずに印鑑を押していませんか? 契約書は身を守る盾にもなれば、契約書を作ったばかりに不利になってしまうこともあります。本稿では、契約書を作成する意義や注意点を、様々な観点から紹介します。

「契約書」作成の意義を考えてみよう

普段のビジネスにおいて「契約書」を目にする機会が多い方、契約書を作らず信頼関係に基づいて取引をする方、その業界や取引先によって様々なケースがあると思います。そこで、まずは契約書とは何か、何のために作成するのかを考えてみましょう。

まず、「契約」という言葉ですが、端的に言えば「約束すること」であり、その内容を指します。契約書とは、人や会社間での契約の内容つまり、約束された内容を記載した書面を指すことになります。

会社と経営者を守る目的からは、事前の作成に着目しています。一方、「事後的な契約書」も考えられます。この事後的に作る契約書は、何か問題が発生した後に、問題が起こった当事者間で、どのように問題を解決したか、その内容を確認する書面になります。

会社を守るには、このような問題が起こった後ではなく「問題が起こらないようにしたり、仮に問題が起こってしまったりしても、その問題を有利に解決できるよう準備しておく必要がある」のです。

つまり、これが契約書を事前に作成する意義でもあるのです。

契約書作成上の全般的な注意点

前記のような目的からすると、契約書を作成する上で最も注意すべき点は、

  • 約束した内容が明確になっているか
  • 他の意味に解釈されないくらいに具体化・特定されているか

の2つになります。

仮に契約書を作ったとして、その中で約束した内容が曖昧であれば、どのような結果が予想されるでしょうか。

A社とB社が契約書を作成したとして、お互いに約束したと思っていたことが違っていれば、相手方に対して約束内容を守るように主張します。内容が曖昧であれば、どちらが正しいのか分からなくなり、両社ともに自分が正しいと主張し紛争は解決されません。

紛争が当事者間の話し合いで解決できない場合、最終的には裁判などの法的手続によって決着をつけるしかなくなります。

第三者である裁判所としては、A社及びB社の請求する内容が契約に基づく請求であれば、契約書がどのようになっているか、つまり両社がどのような約束をしたかを確認します。

その際に、契約書の内容が曖昧であり、A社の主張しているようにも読めるけれども、B社の主張しているようにも読めるとなったとすれば、中立な立場である裁判所は、A社の請求もB社の請求も認めない可能性もあります。

契約書の内容だけでは判断できないとなると、裁判所は、契約書の内容以外に、契約書を作成した当時のA社及びB社の事情、契約書を作成した後や取引中のA社及びB社の行動など、契約書以外の事情も踏まえ、両社のいずれかを勝たせることも考えられます。

しかし、裁判を続けて事実関係を証明し、勝訴判決を獲得するには、予想外に長い時間と多額の費用がかかってしまう可能性があります。このような事態にならないようにするためにも前述の2つの注意点を厳守する必要があります。

場合によっては、作成者以外の者に内容をチェックしてもらい、契約当事者がそれぞれ何をする必要があるかを理解することができるか、確認してみることも重要です。

「基本契約書」と「個別契約書」

契約書の種類として、

  • 「基本契約書」
  • 「個別契約書」

の区別があります。

「基本契約書」は、高い頻度で繰り返しの取引がなされる場合に、個々の取引すべてに適用される約束を記載した契約書です。例えば、個々の取引がいつ成立したことになるか、どのような事態が発生したら契約を解除できるか、不注意などから損害が発生した場合どのような責任を負うか、などの内容を決めます。

「個別契約書」は、個別の取引について定めた契約書です。例えば、売買取引であればどのような物を買うか、その数量は「どのくらいで・いつ・どこに持って行くのか」など、個別の取引に関する詳細を取り決めた契約書です。

基本契約書を作成した当事者間では、実務上、個別契約は発注書や請書・承諾書の取り交わしで済ませる場合も多く、取引の都度、個別契約書を作成することは少ないかもしれません。しかし、発注書なども当事者間の約束、すなわち、契約の成立に関する書面といえるので安易に考えることは注意が必要です。

また、基本契約書と個別契約書の作成に当たり、どちらが優先されるかにも注意が必要です。基本契約の内容と個別契約の内容に相反する内容が定められている場合に、どちらの内容を適用すべきかを巡って争いが生じることがあります。そのような相反がある場合は、優先順位を予め決めておいた方がいいでしょう。

「約款」に注意が必要

契約書に「定めのない事項は○○約款に従う」という条項が、記載されていることがあります。

不特定多数者との契約を高頻度で取り扱う場合、予め定型的な契約内容を規定してあります。そのような契約内容を「約款」といいます。約款は細かい字で多量に記載されおり、読むのは億劫かもしれません。しかし、約款を含む契約書に署名すれば、後から「約款は読んでいない」と言っても手遅れです。契約書の内容に約款が出てきたときには、注意して確認してください。

個別の契約条項の種類と注意点

ここまで、契約書の内容、および注意点などを解説しました。

次に、契約書によく見られる左記に挙げた「条項」に関して、個別の注意点をご紹介いたします。

  • ㈰契約の成立に関する条項
  • ㈪支払条件に関する条項
  • ㈫検査に関する条項
  • ㈬権利の譲渡の禁止に関する条項
  • ㈭瑕疵担保に関する条項
  • ㈮損害賠償に関する条項
  • ㈯解約に関する条項
  • ㉀秘密保持に関する条項
  • ㈷裁判管轄に関する条項
  • ㉂有効期間に関する条項

基本契約書によく記載があります。どのような状態になったら個別契約が成立するかを定める条項で、一般的には、発注書などを送り、それに対して、請書や受諾書などの返答をした時点で、個別の契約が成立するという規定が多いようです。

注意点は、「発注書を出した後○日以内に返答がなければ個別契約が成立したとみなす」という条項が入っている場合です。

手違いで連絡事項を見落として返答できていない、商品手配の都合上返答まで時間がかる、などの場合も、定められた日数を経過すると自動的に契約は成立します。であれば、「○日以内に返答がなければ契約が成立しない」という条項にすることも考えられます。

㈪支払条件に関する条項

支払いを受ける側にとって、契約において代金支払いに関する事項はとても重要です。そのため、具体的な代金額やその計算方法、支払時期、支払方法は契約書に必ず明記した方がいいでしょう。

ただし、支払方法などを明記しても一定の問題が生じることがあります。

例えば、一定の資本金額の会社間で一定の類型の請負をしている場合、「下請代金支払遅延など防止法」(以下、下請法)の規制を受ける可能性があります。

下請法では、第2条の2で「下請代金の支払期日を、物品などを受領した日や役務が提供された日から60日以内」と定めています。

そのため、支払時期が物品などを受領した日から60日を超えてしまうと、たとえ契約書で定めた内容通りであったとしても「年14・6%の遅延利息」が発生する可能性があるので、注意が必要です。

㈫検査に関する条項

取引をする上で、商品の売買や建築などの請負であれば、売ったものや建てたものが、契約条件にしたがった品質を満たしているか、検査する条項が入っている場合があります。

また、役務やサービスの提供であれば、実行した役務やサービスがしっかりと行われているのか、検査する条項が入っている場合があります。

この場合、検査基準や品質基準が曖昧になっていないか、検査する側の恣意的な基準で合格・不合格が出されるような内容になっていないか、注意する必要があります。

さらに、物品の引渡しや役務の提供を受けた後、「○日以内に検査の結果を通知しなければ自動的に検査に合格したとみなす」という規定が定められる場合があります。

検査をする側としては、検査に充分な期間が設けられているか、確認しておく必要があります。

㈬権利の譲渡の禁止に関する条項

商品を売ったり、役務やサービスを提供したりする場合、契約にしたがって代金が発生しますが、すぐに代金を受け取ることができるとは限りません。

ケースによっては、1カ月以上先の支払になる可能性も考えられます。このような支払日が先延ばしになる場合でも、商品を売ったり、役務やサービスを提供したりする側は、一定の期日に代金を受け取る権利を持っています。

この権利は、民法上、商品・役務・サービスなどと同じように、売ってお金に換えることができます。

とはいえ、いきなり見ず知らずの人間が「権利を買った」と言って現れても混乱するだけです。したがって、このような権利の譲渡を禁止する条項を入れる場合もあります。

㈭瑕疵担保に関する条項

ある商品を売った際に、その商品に見た目では分からない欠陥があることがあります。このような一見して分からない欠陥のことを「隠れた瑕疵」と言い、このような欠陥があった際にその補償をする責任のことを「瑕疵担保責任」と言います。

一見して分からない欠陥があったとしても、それが発覚するまでいつまでも責任を負うことは現実的ではありません。このような瑕疵担保責任を一定の期間に限定することがあります。

㈮損害賠償に関する条項

一方当事者が契約で定められた内容に違反した場合のペナルティが発生する要件、およびペナルティの内容について、契約上きちんと定めておく場合があります。

契約書では、損害賠償の範囲を限定したり、損害賠償の額を明示することがあります。賠償請求をする側としては、いざ損害賠償請求をしようとした時に、実際に発生した損害よりも低額の賠償請求しかできなくなる場合もありますので、注意が必要です。

㈯解約に関する条項

一度締結した約束を解消できる場合として、法律の規定による解約、契約の規定による解約、その都度の合意による解約、という分け方が考えられます。

契約書では一般的に、契約を解約できる場合を定めることが多くあります。このような解約に関する条項を定める上で注意が必要な点は、解約できる条件や原因があまりにも不利になっていないかです。

ケースによっては、一方だけが無条件で解約でき、解約による損害賠償も請求できないなどの内容になっていることもあるので、注意が必要です。

㉀秘密保持に関する条項

取引に際して、取引相手の営業上の秘密に接してしまう、また取引先に自らの営業上の秘密を教えなければならない、などのケースは充分予想されます。

そのような場合に備えて契約書に取引相手の営業上や業務上の秘密について、第三者に開示しないという条項を入れる場合がよくあります。

他方、一定の場合に秘密保持の義務を負わせる必要がない、または義務を負わせることが妥当ではない場合も考えられます。本当に秘密保持条項を入れることが必要かは、充分に検討する必要があります。

㈷裁判管轄に関する条項

裁判管轄とは「紛争になった際に、どの裁判所で裁判ができるか」というものです。一般的には、訴えられる側の住所地や会社所在地が裁判のできる場所になりますが、合意によって裁判ができる裁判所を定めることもできます。

したがって、裁判のできる裁判所を事前に合意しておくことで、遠方の裁判所へ行かなければならないリスクやコストを減らせる可能性があります。

㉂有効期間に関する条項

単発の売買取引などでは契約の有効期間を定める必要はありませんが、取引基本契約など継続的な取引を前提とした契約では、契約の有効期間を明確にしておく必要があります。

また、契約は、本来は有効期間が満了すれば自動的に終了しますが、実際には「当事者のいずれか一方から意思表示がない限り、自動的に契約が更新される」という条項が入っていることが多いです。自動更新条項を入れる際には、「更新拒絶の意思表示」はいつまでに行うのかを明確にしておく必要があります。

それでも紛争が起こってしまったら…

以上、契約書の内容、注意点に続き、条項に関する個別の注意点を紹介しましたが、契約書をしっかりと作成したにも関わらず、問題や紛争が起こってしまうときもあります。

しかし、そういった場合でも、しっかりとした契約書で、きちんと証拠を残していれば、仮に裁判になったとしても、合意内容を証明したり、時間を短縮したりと、有利に働く要素は多々あります。しっかりとした「契約書」は、自らの身を守ることにつながりますので、ぜひ積極的に活用してください。

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