社会保険労務士 岡田 恵子
社会保険労務士 岡田 恵子
これからの時期、転勤、配置換え、職種の変更等、企業内人事異動を行う会社は多いと思います。企業内人事異動には会社の組織活性化や社員の能力開発などのメリットがありますが、一方で社員に与える影響が大きいため、慎重に進める必要があります。
人事異動の中でも、転勤は比較的頻度が多く、トラブルも起きやすいと言えます。そこで、今回は、転勤に関する以下のケースについてご紹介したいと思います。
「当社では、就業規則に、業務の都合により転勤を命ずる旨の規定を定めています。当該終業規則の規定に基づき、社員Aを甲支店へ転勤させる旨の内示をしたところ、Aは家庭内での個人的な事情を理由に拒否してきました。このような場合、会社は転勤を強制することはできないのでしょうか?」
社員の個人的な家庭の事情だけで、通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえなければ、原則としてその転勤命令は有効とされます。ただし、会社には社員への配慮義務があります。配慮義務に欠く転勤命令については無効となる場合があります。
具体的には、単身赴任の拒否、子供の教育問題といった個人的な家庭の事情だけでは、原則として転勤を拒否することはできません。
転勤によって、社員が負うことになる不利益は必ずしも小さくはありませんが、通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえなければ、有効とされます(東亜ペイント事件=最二小判昭61.7.14労判477-6、ケンウッド事件=最三小判平12.1.28労判774-7)。
しかしながら、老父母や病人など介護が必要な家族を抱えている場合、一緒に転居することが困難であり、家族との別居によって、家庭が崩壊しかねない状況を予測できるようであれば、社員は転勤命令を拒否できる場合もあります。
会社側は、このような個人的な事情を抱える社員へ転勤を命じる場合には、十分配慮する義務があります。事情を考慮しないで転勤を強要した場合、人事権の乱用となり、転勤命令が無効となることがあります。
また、持病をかかえる社員に対する転勤命令についても、会社は、社員に対しては、健康配慮義務を負っていますので、持病を抱える社員の健康保持に留意し、健康が悪化することのないように適切な配置を行う義務があります。(労働安全衛生法第65条の3、労働契約法第5条)。
したがって、会社が持病を抱える社員へ転勤を命じる場合、病気の質・程度、転勤が病気に与える影響などを考慮する必要があります。こうした配慮を欠く転勤命令は、無効となる場合があります(ミロク情報サービス事件=京都地判平12.4.18労判790-39)
就業規則などで、業務の都合により転勤を命ずる旨の規定がある場合、会社は社員の意欲に配慮しながら、事前に時間をかけて、十分に話し合い、社員が転勤の必要性を納得できるよう、会社の説明責任を果たすことが求められます。
社員へ転勤を打診する際に、転勤により、その社員やその家族に大きな不利益を与えることが十分予測できる場合には、他の適任者から人選することも考慮する必要があります。
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