企業法務 相談事例

再生債権と相殺

相談の概要

A社は、取引先のB社から、突然、民事再生の申立をするということで、民事再生手続に関する連絡文などを受け取りました。

A社とB社との間には、お互いに物品の売買があり、双方に債権をもっている関係でした。また、A社は、B社に対して、業務委託を行っており、1年間分の業務委託料を前払いしている状態にありました。

民事再生手続に関する連絡文の中に、お互いに債権がある場合には、一定の期限までに届け出てほしい旨の記載があったことから、ご相談にいらっしゃいました。

誓約書

相談の内容

民事再生法92条では、債権の届出期間の満了前に相殺に適するようになった場合に、再生債権者から、債権届出期間内に限って、民事再生の再生計画の定めるところによらず、相殺することができるとされています。

そのため、取引先が民事再生を開始し、お互いに債権がある場合には、一定の期間に限って相殺することができますので、その期間内に忘れずに、相殺の通知をすることが必要です。


この時、民事再生をした取引先に支払う金額の方が、取引先から支払ってもらう金額よりも多い場合には、差額を通常の支払時期に支払う必要があります。

また、逆の場合には、不足分は再生手続で債権の届出をして、配当が得られるかどうか確認する必要があるでしょう。


なお、一定の業務委託をしている場合で、取引先が民事再生の開始をして、その費用を前払いしてしまっていた場合、その業務を行ってもらう権利(債権)も、再生債権となり、業務は行ってもらえず、一部の配当が得られるかどうか、という程度になってしまうと考えられます。


売買等で民事再生をする取引先に支払いをする必要がある場合など民事再生する取引先に債務を負っている場合で、費用を前払いした業務を行ってもらえない場合には、再生債権の届出期間満了前に、債務不履行・履行不能で契約を解除し、原状回復請求権と取引先に対する債務を相殺し、損失をできる限り減らすという方法も考えられます(※場合によっては争われる可能性があります)。

競業避止義務について

相談の概要

従業員が退職する際に、同業他社で勤務しないという競業禁止の誓約書を提出してもらったが、その従業員が退職後、同業他社で働いているという情報が入ってきた。

このような場合、競業禁止の誓約書が出されていることから、従業員に何かできることはないか。

誓約書

助言の内容

個人には、職業選択の自由がありますので、原則として仕事を選ぶ自由を制約することはできません。例外的に、競業禁止の約束・契約があれば、同業他社への就職を制限できる場合がありますが、同業他社と退職した従業員の間の労働契約を解消することは難しいでしょう。

競業禁止の約束がある場合、それに反した際の損害賠償や退職金等の返還請求といった金銭的な精算は考えられます。
しかし、競業禁止の約束は、従業員の職業選択の自由を制限する程度が大きいことから、必ずしも有効だと認められるわけではありません。

これまでの裁判例では、①守べき企業の利益の有無、②競業禁止の範囲が合理的な範囲にとどまるか、③退職した従業員の地位、④地域的な限定、⑤存続期間、⑥禁止される教務の範囲に関する制限の有無・範囲、⑦競業禁止の代わりの代償措置があるかどうか、といった点を検討して、競業禁止の合意等の有効性について判断されているようです。

事業継承の方法についてご相談された事例

相談の概要

上場していない会社の唯一の株主かつ代表取締役のAさんは、都合により会社経営を続けることができず、事業の承継を考えていました。

事業の引継ぎ先を探していると、引継ぎ先が見つかり、株式を譲り渡して代表者・役員を交代する方法での事業承継を提案されました。

そこで、Aさんは、株式を譲り渡し、代表者・役員を交代する方法での事業承継に問題がないか、ご相談にいらっしゃいました。

腕を組む男性イメージ

助言の内容

会社の状況を確認すると、色々な借り入れがあり、かつ会社からAさん個人に対する貸付もあるということでした。

そのため、会社の株式を譲渡し、役員も交代してしまうと、Aさんは会社に対して何の影響力も行使できなくなってしまい、新しい代表者から、会社からAさんへの貸し付けの返済を求められたり、何らかの会社経営上のミスの賠償請求をされる可能性が否定できないと思われました。

そのため、リスクを避けるためには、会社の株式を譲り渡し、役員を辞任する前に、会社からAさんへの貸し付けを清算するか、新役員の就任と同時に貸し付けを免除してもらい、経営上の問題があっても会社から将来的な賠償請求をしない合意書を作るなど、債権債務関係は明確にした上で、事業の承継をした方がいいのではないか、とお伝えしました。

所感

後継者不足から、今後、事業承継のニーズが高まってくるのではないかと予想されます。

事業承継をする場合、事業譲渡、会社株式の譲り渡し、他社との合併など、いろいろな方法が考えられます。

このとき、会社から完全に離れてしまえば、会社と個人は別ですので、譲り渡した会社から何らかの請求をされる可能性がありますので、会社と個人との間の債権債務の清算には注意を払った方がいいでしょう。

特に、上場していない会社で、ほぼ個人でやっているような会社では、個人と会社の区別があまりついておらず、使途不明金などを代表者貸付として処理している場合も見られます。

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