はじめに
近年、某自治体の知事の行動に関して、公益通報制度についても問題が指摘されています。「公益通報」という言葉を聞いたことがあっても、どのような制度なのか知らない方が多いのではないでしょうか。
公益通報制度とは
公益通報は、「公益通報者保護法」という法律で定められています。
この法律では、公益通報の定義として、以下のような内容を定めています。
概要でご説明すると、
1. 通報者に当たる人
労働者(退職者も含む)、派遣労働者、役員、請負業者等が定められています。
そのため、全く関係のない第三者(偶然に犯罪行為などを見たり聞いたりした人)は、公益通報者保護法に定める公益通報者には当たりません。
2. 公益通報の対象となる事実
公益通報者保護法の別表に掲げられている犯罪行為の事実、又は同じく別表に掲げられている法律で過料の理由とされている事実、もしくは犯罪行為や過料につながる処分違反行為が対象となる事実とされています。
つまり、単純な民法上の違反(不法行為や債務不履行など)は、公益通報としての対象となる事実とはなっていません。例えば、職場で不倫があったとしても、あくまでそれは民法に反する行為であり、犯罪行為ではないことから、公益通報の対象となる事実ではないことになります。
※公益通報の対象行為ではないからといって、不法行為等をしていいというわけではありません。
3. 通報に不正等の目的がないこと
公益通報者保護法の第2条(定義)では、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく」と定められています。
このような不正な利益を得る目的があったり、他人に損害を加える目的がある場合には、公益通報者としての保護を受けられなくなります。
4. 公益通報をする先
- 勤務先・役務提供先の内部、又は勤務先等が通報先として定めたところ
- 通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為)もしくは勧告等(不利益処分とまではいかない行為)をする権限を有する行政機関、又はその行政機関が通報先として定めたところ
- その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(例えば報道機関や消費者団体、犯罪行為により被害を受けるような周辺住民が例示されています)
このように、公益通報者として保護されるにはある程度の要件を満たすことが必要ですが、職場で犯罪行為が行われていれば、その会社の従業員はほとんど要件を満たすことが多いのではないかと思われます。
公益通報者の保護
では、公益通報者に当たると、どのような保護が受けられるのでしょうか。
公益通報者保護法で定められている内容は、以下のような内容です。
1. 解雇の無効(3条)
2. 労働者派遣契約の解除の禁止(4条)
3. 降格、減給、退職金の不支給など不利益取り扱いの禁止(5条1項)
4. 労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めることその他不利益な取扱いの禁止(5条2項)
5. 報酬の減額その他不利益な取扱いの禁止(解任を除く)(5条3項)
6. 公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することを禁止(7条)
このような定めがありますので、公益通報者は一定の保護を受けていると言えます。他方、現実の問題として、このような公益通報をしたことが勤務先などに分かると、その会社にいることが現実的に難しくなると思われることから、このような保護が必ずしも十分とは言えないでしょう。
公益通報対応業務従事者(過去に公益通報対応業務従事者であった者を含む)は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないとされていますが(12条)、公益通報者保護法で定められている罰則は、30万円以下の罰金(21条)又は20万円以下の過料(22条)の2つだけですので、実効性がどこまであるかは何とも言えないところです。
さいごに
現在、公益通報者保護法の改正が目指されており、罰則として6か月以下の拘禁刑も導入されるという話がありますので、拘禁刑が導入されると実効性が高まることも考えられます。