企業法務 解決事例

現金で支払ったはずの土地建物の返還を求められた事例

事案の概要

A社は、取引先のB社から話を持ち掛けられ、B社の所有していた土地建物を購入しましたが、その支払いは現金で支払っていました。

その後、B社が破産することになりましたが、B社の破産後、いきなりB社の破産管財人から、A社がB社に対して土地建物の売買代金を支払っていないとして、土地建物を返還するように求める裁判を起こされました。

A社は、裁判に対する対応が分からず、当事務所にご相談にいらっしゃいました。

破産管財人の主張が、現金で支払っているため実際に代金が支払われていなというものでしたので、代金の領収書や代金を準備したことが分かる預金通帳の写しを提出したり、B社の代表者への尋問を行う等の対応をして、最終的には破産管財人からの請求は棄却されました。

解決に要した期間

2年間

所感

不動産取引では、売買代金を現金で支払うこともあると思われます。裁判では、弁済(代金を支払ったこと)の事実の主張・立証責任が、その弁済を主張する側にあることが一般的ですので、代金の支払いは振り込みにするとより立証がしやすくなるでしょう。

費用を支払わず退所した相手へ請求をした事例

事案の概要

A社は、介護施設を運営していましたが、入所者が利用料等を支払ってくれず、支払わないまま退所されてしまいました。

そこで、A社は、その利用料を請求するために、当事務所へご相談にいらっしゃいました。

当事務所では、費用を支払わず退所したということで話し合いは困難だと考えられたことから、速やかに訴訟を提起しました。

元利用者側では、無償で入所する合意があったとか、入所の契約をしていない等の主張がありましたが、もともと利用料を支払うことを理解していたことを裏付ける証拠を提出し、反論を行い、最終的には請求額全額の支払いが認められました。

解決に要した期間

1年間

所感

数は多くはないと思われますが、利用料・売買代金、その他いろいろな代金、費用を支払ってくれない場合があります。金額が多くなると回収が難しくなる場合もありますので、滞納があれば早期に対応した方がいいでしょう。

介護の状態に関して問題があったとして損害賠償を請求された事例

事案の概要

A社は、介護施設を運営していましたが、病院に入院して対処した利用者の相続人から、後になって介護の状態に関して問題があったとして、損害賠償を請求されました。A社では対応が分からず、当事務所にご相談にいらっしゃいました。

当事務所では、既に訴訟提起をされていたことから裁判の代理をして、介護記録や社員の出勤簿を提出するなど介護体制に問題がなかったことを主張しました。また、原告の主張内容が不明確であることから、その点に対して指摘を行いました。

最終的には、早期解決の点で、当初の請求額よりも大幅に減額した金額を和解金として、解決しました。

解決に要した期間

約2年間

所感

介護の業務を行っている場合、人数の配置要件や作成すべき書類が多々ありますので、そのような記録を使って反証・反論をすることが考えられます。逆に、あるべきはずの書類がない場合には、不利になる可能性がありますので、注意が必要です。

動産売買先取特権に基づく物上代位による差押

事案の概要

A社は機械の卸売りを業としていましたが、取引先に機会を納入した後、代金を受け取る前に、その取引先が破産するという通知がありました。A社は、その売掛金が回収できないと多大な損失を被ることになるため、当事務所にご相談にいらっしゃいました。

当事務所では、お話を聞くと、卸売のため納入された機会がさらに転売された先も把握できたことから、その転売先の協力を得て、動産売買先取特権に基づく物上代位による差押を試すことを提案し、速やかに準備に取り掛かり、差押申立をしました。

申立後、連日、裁判所と調整をした結果、最終的には差押命令が発令され、転売先から取引先に代金が支払われる前に回収することができました。

解決に要した期間

約10日間

所感

取引先が倒産した場合でも、特別の担保権があれば売掛金を回収できる可能性があります。動産売買先取特権に基づく物上代位による差押は、実際には転売先の協力が得られなかったり、転売先が分からないなどの事情から、認められる割合は低いようです。

従業員から”セクハラ行為を受けた”と慰謝料請求された事例

事案の概要

A社は、従業員から、代表者がセクハラ行為をしたとして、慰謝料及び逸失利益を請求する訴訟を起こされました。

A社は、訴訟に対してどのように対応したらいいか分からず、当事務所にご相談にいらっしゃいました。訴訟を提起された以上、何らかの対応をし、反論等をしなければ敗訴することから、当事務所で代理し、従業員の提出した主張書面及び証拠に対して、反論等をしていきました。

A社には、従業員に対して立替払いもあったことから、最終的には、多少の解決金を支払い、ただし立替払金を精算するという内容で和解しました。

解決に要した期間

約6か月

所感

日本では、裁判を受ける権利自体は誰にでもあることから、身に覚えがなくても訴訟を起こされた以上、対応をせざるを得ないことになります。

近年では、セクハラ・パワハラと言われることも増えてきたようですので、普段から誤解を招く行為もないようにすることも重要でしょう。

契約終了から1年後に未経過分の契約料を請求された事例

事案の概要

Aさんは、継続的な役務の提供を業としていましたが、顧客から契約の終了を申し入れされました。

Aさんは、継続的な役務の対価を1年分、前払いでもらっていましたので、未経過分をどのようにするか相談するため、顧客のところに出向きました。

その際には、未経過分は返金しないということで清算しましたが、それから1年ほど経過した後、いきなり顧客から、未経過分の返金を求められ、訴訟が起こされました。

Aさんは、対応方法が分からず、当事務所にご相談にいらっしゃいました。当事務所では、予想される内容や反論の内容を想定し、相談した上、訴訟に臨み、最終的には、未経過分を全額ではなく一部返還するということで、和解が成立しました。

解決に要した期間

約6か月

所感

業務委託の場合、民法上は、いつでも契約を解除することが可能です。この時に、業務委託の対価を先に受け取っていた場合、出来高に達していない部分や未経過の部分は、返還する必要が生じる可能性が高いでしょう。

これを返還しないという合意は可能ですが、証明責任の問題がありますので、清算に関する合意をする際には、極力、書面で合意した方が無難でしょう。

株式が多くの親族に分散した会社で株主総会を招集し代表を解任した事例

事案の概要

Aさんは、いわゆる同族会社B社の役員かつ株主でしたが、B社の株式は相続を繰り返し、多くの親族に分散していました。

この中で、Aさんの兄弟がB社の代表者を務めていましたが、Aさんが役員としてB社の財務状況の説明を求めても、Aさんの兄弟は全く説明をしてくれませんでした。

B社のこの状況を何とかしたいと考えたAさんは、当事務所にご相談にいらっしゃいました。


B社の株主の状況やAさんに協力してくれそうな株主の株式数を確認したところ、株主総会を開くことができれば、B社の役員を変更できそうでしたので、当事務所では、代理してB社(Aさんの兄弟)に対して株主総会開催を求め、開催されなかったため、裁判所に株主総会招集の許可を申立てました。

裁判所が許可したことから、Aさんが株主総会を招集し、Aさんの兄弟を解任して、AさんがB社の経営をすることができるようになりました。

解決に要した期間

約3か月

所感

会社の中には、株主が相続などの事情で分散している会社があります。

こういった会社の場合、基本的には株式の過半数を持っている(又は議決権の過半数を有する株主に支持されている)人物が、会社の経営をすることが多いでしょう。

どうしても株主総会を開かない会社があれば、株主は、一定の株式数を有している場合、裁判所の許可を経て株主総会を開くことも可能です。

手渡しした役員報酬を請求された事例

事案の概要

A社は、いわゆる同族会社であり、役員は創業者・代表者のBさんとその配偶者の2名だけでした。
役員報酬は、Bさんが配偶者に手渡しで渡していましたが、領収書はもらっておらず、その他に役員報酬を支払ったことが確認できる資料もありませんでした。

ある時、Bさんと配偶者の関係が悪化し、配偶者はA社に対して、役員報酬が支払われている証拠がないことから、役員報酬の支払いを求める裁判を起こしてきました。

A社は、どのように対応していいか分からず、当事務所にご相談にいらっしゃいました。

A社・Bさんは、対応に困って当事務所に相談にいらっしゃいました。
当事務所では、裁判の代理をして、支払を間接的に裏付ける事情を主張しつつ、配偶者がA社の自動車を持って行って返さなかったため、反訴を提起し、その自動車の使用相当損害金を請求しました。結果として、双方が訴訟を取り下げ、自動車が返却されて、解決することになりました。

解決に要した期間

約1年

所感

中小企業の場合、役員報酬を現金で手渡しにしている会社もあるかもしれません。
支払いは、民法上は「弁済」といいますが、弁済はそれをしたと主張する側に証明する責任がありますので、支払ったと主張する側が支払った事実を証明できないと、実際には支払っていても、裁判所で支払いの事実が認められない可能性があります。

前株主から経営権を返せと主張された事例

事案の概要

A社は、業務提携先の会社(B社)の業績が悪化しているということで、立て直しもかねてその会社の株主から、業務提携先の会社の株式の無償譲渡を受けました。
ただし、契約書は作成したものの、印鑑は株主の了解を得て、代わりに押印していました。

その後、A社はB社の経営状態を建て直すことができ、B社の運営をしていましたが、急に前株主から、株式譲渡はしておらず、自分が株主だから経営権を返せといった主張をされ、株主であることの確認を求める裁判を起こされました。

A社は、どのように対応していいか分からず、当事務所にご相談にいらっしゃいました。
訴訟を進め、株式譲渡契約書作成の前後の経緯で、B社の前株主が株式譲渡を前提にしていたような言動を複数主張・立証した結果、最終的には一定の条件(B社と前株主の関係の精算)の下、A社がB社の株主であることを確認する和解が成立しました。

解決に要した期間

約1年

所感

契約書は、署名又は記名押印があれば有効であり、とにかく作成者の意思が生じされていれば効力があります。
しかし、きちんと作成しなければ、後で争われ、結果として契約が成立していない(つまり契約成立の意思が表示されていない)とされかねない危険性があります。
後でこういった点で争われないようにするためには、きちんと自署してもらう、印鑑証明書を添付して実印を押印する、公正証書にする、契約の際のやり取りを録音等の記録に残す、事前・事後にメール等の記録に残る形で契約書のデータをやりとりする、といった対策を採った方が無難でしょう。

企業法務・敷金

事案の概要

A社は、店舗の賃貸借契約をする際に、B社に対して敷金を差し入れていましたが、その契約では、退去時に無条件で一定額を償却するという内容になっていました。
しかし、賃貸物件で雨漏りが発生し、その雨漏りが修繕されないことから、A社とB社の間で、一定の条件で敷金の償却をせず、全額返還するという合意をしました。

A社は、敷金が全額返還されると考えていましたが、退去の際にB社が、償却後の金額で敷金返還したため、A社は当事務所にご相談にいらっしゃいました。

お話をお聞きすると、途中で締結した合意が条件付であったことから、A社とB社の間で、その条件が成就しているか、していないか争いがあることが分かりました。
そこで、条件を満たしているという証拠使用を集め、B社に送付したところ、無事、残りの敷金が返金されました。

解決に要した期間

約2か月

所感

企業間で契約をした場合でも、途中で当初の契約を変更する合意(契約)をする場合もあります。
また、条件付きの契約の場合、条件が曖昧であったり、条件を満たしたかどうか後で判断しにくい内容になっていることもありますので、条件付き契約の場合、その条件を満たしたことを実際に証明できるのかどうか、注意する必要があるでしょう。

持分会社の社員就任の不存在確認

事案の概要

A社は、会社法上の持分会社であり、何人かの社員がいましたが、社内で揉めたことにより多数決で代表者の交代がなされました。
すると、前代表者は他の社員の登記に同意したことがないと急に言い出し、他の社員とA社に対して社員に就任した登記を抹消するように求める裁判を起こしてきました。

このような裁判が起こされたため、A社は対応に困惑し、当事務所に相談にいらっしゃいました。

経過

裁判が起こされた以上、対応はせざるを得ないため、代理で裁判に臨み、前の代表者が他の社員をきちんと登記された社員として扱っている証拠、記録などを提出したことで、前代表者の請求は棄却されました。

所感

勝手に登記手続をされたから、その抹消を求めるという裁判は、不動産でもありますが、時々、会社関係でも起こされることがあります。
このとき、株主総会や社員総会といったものがないことを証明することは困難ですので、訴えられた側がきちんと手続きを行っていること、つまり総会があることの証明を事実上せざるを得ないことが多いと思われます。

このようなトラブルに対する対応は、普段から面倒だと思わずにきちんと手続きをとり、記録に残しておくという方法しかないでしょう。

解決に要した期間

約1年

未払代金の回収に成功した事例

事案の概要

クリーニング業を営む事業者から、大口のクリーニングを受注し、加工、納品したが、顧客が代金を支払わないということで、その支払請求をご依頼いただきました。

経過

正規の料金表にもとづいて算定した代金を主張しましたが、相手方は、同種の取引案件で割引料金が適用されていたとして、大幅に減額された金額しか支払わないとの立場をとり、素直に支払いに応じませんでした。

膨大な数の伝票を整理し、契約書の取交しや、過去の受注履歴などもないことや、料金表の周知状況、裁判実務の傾向などを挙げて説得し、最終的には満額を回収することができました。

所感

決して大規模な取引というわけではありませんが、中小企業にとっては、売掛金の一つ一つが重要であり、早期解決を目指しました。

交渉での解決を希望されていましたが、訴訟に耐えられる主張、立証の準備を行って交渉に臨むことで、強固な法的裏付けを整え、訴訟に移行するプレッシャーを与えることができ、早期解決につながったと考えられます。

解決に要した期間

2か月

社員を被保険者、会社を受取人とする保険に関する事例

事案の概要

A社では、社員を被保険者、会社を受取人とする生命保険に加入していました。突然、社員の1人が亡くなってしまいましたが、保険会社に生命保険のことで相談したところ、社員の相続人の署名押印がなければ保険金は支払えないと言われてしまいました。

A社では、亡くなった社員の相続人が分からなかったことから、弊所に相談にいらっしゃいました。

経過

A社では社員の相続人が分からないということでしたので、まずは相続人の調査を行うとともに、保険会社との間で、本当に社員の相続人の署名押印がなければ保険金が支払えないのか、根拠等を確認しました。

保険会社は、相続人の署名押印がないと保険金は支払えないと頑なに主張するため、まずは見つかった相続人に対して協力を求めました。

A社には、独自の退職金制度がありましたが、保険金の中から上乗せして弔慰金を支払うということで交渉し、最終的には相続人の署名押印をもらい、保険金が支払われました。

所感

保険の中には、会社が契約者、被保険者が従業員、受取人は会社、という保険もあります。労働災害があった際の賠償金に充てる目的の保険などは、そのような形態が多いと考えられます。

保険の中には、支払条件が厳しいものもありますので、加入時に、どのような条件で支払われるのか、パンフレットや約款等をよく確認した方がいいでしょう。

解決に要した期間

3か月

賃貸借契約の締結上の過失による損害賠償請求

相手方:個人
解決に要した期間:約10ヶ月

A社は、建物を賃借して介護事業を営む事業を行っており、ある時、Bさんが手ごろな家屋を所有しているということで、借りられないかどうか話をしました。Bさんは、その家屋に住んでいたため、A社に家屋を貸すのであれば別に家を探さなくてはいけないという話をしていました。

A社は、その後も賃貸借の条件について協議をしましたが、収益性が低いことから、Bさん所有の家屋を借りないことにしました。すると、Bさんは、A社が契約交渉を打ち切ったことで、家屋を退去する前提でかかった費用が損害になったと、A社を訴えてきました。

当事務所は、裁判の代理を務め、当事者間のやりとりに関する証拠を提出して、A社とBさんの契約の進み具合が契約締結の期待を抱かせるものではなかった等の主張立証を行いました。結果としては、A社はBさんに契約締結の期待を抱かせたので、損害を賠償する義務はあるが、Bさんにも相当の過失があるので、賠償義務は5割減額という結論になりました。

契約交渉をする上で、いわゆる「契約締結上の過失」と呼ばれるものがあります。これは、契約は締結するまでには至っていないが、それまでの交渉経緯から考えて信義則上求められる注意義務に反し、契約を打ち切った場合には、契約交渉にようした費用などの賠償が認められる場合です。

このような可能性があるため、契約の打ち切りも慎重に行う必要があります。

今回の事例は、当事者双方が、契約の重要な部分について、電話で連絡をしていたため、言った・言わないの争いになってしまった事例です。裁判所の判断は、痛み分け的に5割の過失相殺を認める内容でしたが、きちんと重要な部分をメールで連絡したり、録音をとっておいたり、書面で連絡していたら、もっと違った結論になってもおかしくなかったと思われます。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

法定労働時間と割増賃金について

企業の代表者が、ご相談にお見えになりました。労働者から割増賃金の請求を受けているとのこと。年商2億円を超える小売業の経営者の方でした。その企業では、労基法上の労働時間の上限が1994年に40時間になった後も、月曜から金曜までが8時間勤務、土曜日が4時間勤務といったように、日曜日に法定休日1日は確保されているものの、週の所定労働時間が40時間を超えていました。

ご相談のなかで、時間外労働等に対する定額の手当が基本給とは別に支払われていたことが確認されましたが、当該手当が割増賃金を含む週40時間を越えた部分についての賃金を明らかに下回っていたため、労働者は差額を請求できることをご説明いたしました。

なお、割増賃金請求権についても2年間の時効が適用されますが(労基法115条)、使用者による時効の援用については権利濫用とされる場合があります(日本セキュリティシステム事件・長野地佐久支判平11・7・14労判770号98頁)。さらに、割増賃金不払いが不法行為にあたると判断された場合には、不法行為の時効(民法724条;損害・加害者を知ったときから3年)が適用されます(杉本商事事件・広島高判平19・9・4労判952号33頁)。

もっとも、基本給がいかに高額であっても、そこに割増賃金が含まれているとして扱うことは労基法37条に違反しますので、注意が必要です。改正前の労基法では2割5分以上とされていた割増賃金について、月60時間を越えて労働させた場合につき、60時間を越えた部分の割増率が平成22年より5割以上に引き上げられていますのであわせて確認しておきましょう(労基法37条1項)。

(労基法37条1項)使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を越えた場合においては、その越えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

ただし、労働協約・労使協定により割増賃金の一部を法定外年休の付与に代えることは可能です(同条3項)。また、中小企業には当分の間、37条1項は適用されません(労基法138条)。なお、適用を除外された中小企業は割増賃金の一部を法定外年休に振り替えることはできません。ここで言う中小企業とは、以下の表のとおり、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」から判断されます。

37条1項ただし書の適用を除外される中小企業※

業種 資本金の額または出資の総額 常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他 3億円以下 300人以下

※平成22年4月施行から3年を経過後に、中小事業主に対する猶予措置について検討が加えられ、その結果にもとづいて必要な措置が講じられることになっています。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

会社や親睦会が金銭を貸し付けている従業員の退職に関する事例

会社が金銭を貸し付けている従業員が退職するときは、貸付金と未払給与・退職金を相殺することがあります。これについては、労働基準法上、賃金全額払い原則というものがあり(労基法24条)、給与・退職金と貸付金を相殺するためには、従業員の事前の同意が必要といわれています。そこで、当法人では、借用書等に、予め相殺を承諾する文言を入れておき、退職時にも同意書をもらうなどの対応をお勧めしています。

それでは、会社ではなく、従業員親睦会等の関連団体が従業員に金銭を貸付けている場合、会社はどのように対応すればよいのでしょうか。

この場合も、借用書等に予め相殺を承諾する文言をいれ、退職時に同意書をもらうなどの対応が必要です。問題は、従業員と親睦会の間でどのような合意をしても、賃金全額払い原則との関係で、会社は従業員に対して賃金全額を支払う義務を負っているという点です。そのため、会社は、特定の従業員に給与を支払うかわりに親睦会等への借入金を弁済しても、この従業員に対して重ねて給与を支払わなければならない、ということになります。このような状況に陥らないためには、会社は、その従業員から、親睦会への弁済について依頼を受ける必要があるのです。

そこで、当法人では、親睦会等の関連団体から会社従業員に貸付をするにあたっては、親睦会と従業員の間だけでなく、会社と従業員の間でも、退職時の未払給与を親睦会への借入の弁済にあてるという合意書や、依頼書、申込書等をもらうように助言しています。

審判・和解の当日は、従業員の要望も考慮しながら、会社にとって不当な不利益にならず、かつ適法な調停・和解条項を作成しなければなりません。この場合は、労働法はもちろん、債権譲渡や債務引受、求償や代位等の債権法の正確な知識や、これらをめぐる税務の基礎的な知識が必要となります。また、労働審判や和解はタイミングを逸すると紛争が拡大するため、その場その場で重要な判断が要求されます。退職をめぐる労働紛争は、一般的に、会社担当者と弁護士の協同が不可欠な事件類型であるといえます。

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共同企業体構成員の連帯債務に関する解決事例

共同企業体構成員の連帯債務
参照条文 商法511条1項

企業取引、とくに建築請負契約では、複数の企業が共同で事業を受注するため、共同企業体(ジョイント・ベンチャー)という組合をつくることがあります。

この場合、取引の主体は共同企業体ですから、契約書の当事者欄や手形の振出人欄には、「AB共同企業体代表者A」などと記載されています。この場合、共同企業体の構成企業は、商法511条1項により、事業に関する債務を連帯して負担します。

ところが、まれに、何らかの事情で、共同企業体の事業と思われる工事について、代表会社の単独名義で下請工事が発注されていたり、代表会社の単独名義で手形が振り出されていることがあります。このような場合であっても、通常どおり工事が行われ、代金が支払われている間は、問題が生じることはありません。しかし、ひとたび代表会社が倒産すると、下請企業は、共同企業体の構成員である他の企業に対しても代金等を請求できるかどうかという問題を生じます。

このように代表会社名義で手形の振出しがあり、代表会社が倒産した事案で、共同企業体を構成する他の企業を被告として請負代金請求訴訟を提起した事案があります。この訴訟では、被告は当該手形が単独名義であることを根拠として、当該工事が共同企業体の発注であることを争いました。たしかに、他の契約書、発注書等はいずれも共同企業体名義で作成されており、この手形のみあえて単独名義で発行されている意味を考えると、代表会社はこの工事を共同企業体の事業としない意図であったのではないかという疑いがありました。

そこで、我々は、共同企業体が受注している工事と代表会社が発注した工事の内容を詳細に検討し、使用された材料に至るまで詳細に特定して、手形発行に係る工事が共同企業体としての事業に関するものであることを立証し、請負代金の大半を回収する勝訴的和解に至りました。
何度も現地を訪問し、行政文書の開示請求を行うなど、地道な立証活動が成果に結びついたという点で、企業法務における弁護活動の基本を学んだ事件でした。

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動産売買先取特権に関する解決事例

動産売買先取特権に基づく債権差押(物上代位)
参照条文 民法704条

A社が、B社に対して売掛債権をもっているときに、B社が倒産してしまうことがあります。
このようなとき、A社は、他の債権者に先んじて、B社に売った商品を差し押さえることができます(これを、「動産売買の先取特権」といいます)。
ところが、A社がB社に売った商品が、全部C社に転売されているような事案では、A社が取り戻すことができる商品がありません。とくに、商品がA社、B社を通さず、メーカーから直接C社に納品されているような事案では(このような取引を「直送型」ということがあります)、A社がB社から商品を回収できる見込みはほとんどありません。

当事務所でも、A社の立場からご相談を受けることがございます。ある事例では、全商品が直送型で取引されており、B社の倉庫には、A社が差押えるべき商品がまったく残っていませんでした。そこで、我々は、A社が売った商品のかわりに、B社がこれを転売して得たC社に対する売掛債権を差押え(これを、「物上代位」といいます)、A社の売掛金の大半を回収することに成功しました。

この種の事案では、C社がB社に代金を支払う前に差押えを完了する必要があり、いかに迅速に裁判所の決定を出させるかが決め手となります。そして、裁判所が差押決定を出すにあたっては、A社がB社に売ったものと、B社がC社に売ったものが同一かどうか、その証明の成否が判断の決め手になります。本件のような「直送型」の取引では、AB間取引、BC間取引で商品がまったく同じ動きをするので、商品の同一性の立証はそれほど難しくないことが多いのですが、現実に取引されている商品と伝票とが異なるルートを通っているため、ときに現実の商品の移動と伝票上の記載に齟齬が生じている場合があります。とくに、メーカーと商社の間で伝票の記載や規格の記載、数量の記載が微妙に異なっている場合などでは、裁判所が同一性の認定に躊躇をすることがあります。

本件でも、同じ問題がありましたが、当法人の弁護士が、裁判所との折衝を繰り返して論点を整理し、会社担当者と協力して丹念に資料を集めることで、かろうじて支払前に売掛金の大半を差押えることができました。本件は、会社担当者の初動対応が適切でなければ、間に合わない可能性がある事案でした。当法人にとっても、事件解決が依頼者と弁護士の協同作業であることを学んだ、企業法務における教訓的事件です。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

「セクハラ」に関する事例

A社内でセクハラ行為があったとして、地域労組から団体交渉の申入れがありました。
当法人の弁護士2名が企業側代理人として団体交渉に参加し、労働組合と折衝して和解を成立させています。 本件では、セクハラ行為の有無が正面から争点となりました。

本件でもそうでしたが、しばしば、労働組合は、「被害者がセクハラだと思ったのだからセクハラだ。」という主張をすることがあります。しかし、当事者の主観だけでセクハラかどうかが決まるということはありません。まずは具体的事実関係を精査し、被害者とされる労働者が受けた不利益、就業環境の悪化などの客観的事情を考慮することが必要です。そのうえで、本件では、平均的な労働者の感じ方を基準として判断すべきであるという厚生労働省の解説を引用して、慰謝料請求を事実上撤回させることに成功いたしました。

ほかにも、団体交渉に先立って、時間、場所、参加人数の調整が難航することがあります。 どの程度であれば誠実な対応といえるのか、どの程度であれば不当な交渉拒否に当たるのかの判断は難しいものがあります。早い段階から専門家を交えて対策を練ることをお勧めします。

用語説明 : セクハラ(セクシャルハラスメントの略称)

アメリカから輸入された概念で日本では1980年代末ごろから用いられるようになりました。 セクハラ行為には大きく分けて「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2種類に分けられます。
具体的なセクハラ被害というのは、 ・体を触る ・性的関係を強要する ・卑猥な言葉を多発する ・異性関係の噂を社内に流す ・性的経験・異性関係をしつこく聞く といったような言動を職務立場を利用して行い、拒絶した相手に対して減給や解雇といった不利益を与えたり、本人と特定できるような文書や写真を社内に貼ったり知人等にFAXを流すといった嫌がらせをしたり脅かしたりすることを言います。
弁護士 杉浦 恵一

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

「懲戒解雇」に関する事例

懲戒解雇した労働者から不当解雇を主張されている事案において、会社側に立ち、事案の解決に携わりました。当該事案では、多数回にわたる本人および相手方らとの交渉を経た上、団体交渉を行い、依頼者に納得していただける内容での和解を締結しました。

労働法においては、解雇は、客観的に合理性を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したのとして無効とするという解雇権濫用法理というものが確立されており、勤務成績や勤務態度等の不良を原因とする懲戒解雇をすることは、それだけで潜在的な紛争を抱え込むことになります。
そして、これが顕在化した場合には、労働審判を申し立てられる等、長期的な紛争に巻き込まれる可能性も十分にあります。
したがって、このように裁判所を介した手続きになる前に、早期解決を図ることは企業にとっても大きなメリットとなります。

用語説明 : 懲戒解雇

企業秩序を著しく乱した労働者に対して行う制裁罰として行わる処分で、その中でも最も重い処分としての解雇です。なお、公務員の場合は、懲戒免職と呼ばれる。

用語説明 : 解雇権濫用法理

客観的に合理性を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したのとして無効とするというもの。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

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