企業法務解決事例

賃貸借契約の締結上の過失による損害賠償請求

相手方:個人
解決に要した期間:約10ヶ月

A社は、建物を賃借して介護事業を営む事業を行っており、ある時、Bさんが手ごろな家屋を所有しているということで、借りられないかどうか話をしました。Bさんは、その家屋に住んでいたため、A社に家屋を貸すのであれば別に家を探さなくてはいけないという話をしていました。

A社は、その後も賃貸借の条件について協議をしましたが、収益性が低いことから、Bさん所有の家屋を借りないことにしました。すると、Bさんは、A社が契約交渉を打ち切ったことで、家屋を退去する前提でかかった費用が損害になったと、A社を訴えてきました。

当事務所は、裁判の代理を務め、当事者間のやりとりに関する証拠を提出して、A社とBさんの契約の進み具合が契約締結の期待を抱かせるものではなかった等の主張立証を行いました。結果としては、A社はBさんに契約締結の期待を抱かせたので、損害を賠償する義務はあるが、Bさんにも相当の過失があるので、賠償義務は5割減額という結論になりました。

契約交渉をする上で、いわゆる「契約締結上の過失」と呼ばれるものがあります。これは、契約は締結するまでには至っていないが、それまでの交渉経緯から考えて信義則上求められる注意義務に反し、契約を打ち切った場合には、契約交渉にようした費用などの賠償が認められる場合です。

このような可能性があるため、契約の打ち切りも慎重に行う必要があります。

今回の事例は、当事者双方が、契約の重要な部分について、電話で連絡をしていたため、言った・言わないの争いになってしまった事例です。裁判所の判断は、痛み分け的に5割の過失相殺を認める内容でしたが、きちんと重要な部分をメールで連絡したり、録音をとっておいたり、書面で連絡していたら、もっと違った結論になってもおかしくなかったと思われます。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

法定労働時間と割増賃金について

企業の代表者が、ご相談にお見えになりました。労働者から割増賃金の請求を受けているとのこと。年商2億円を超える小売業の経営者の方でした。その企業では、労基法上の労働時間の上限が1994年に40時間になった後も、月曜から金曜までが8時間勤務、土曜日が4時間勤務といったように、日曜日に法定休日1日は確保されているものの、週の所定労働時間が40時間を超えていました。

ご相談のなかで、時間外労働等に対する定額の手当が基本給とは別に支払われていたことが確認されましたが、当該手当が割増賃金を含む週40時間を越えた部分についての賃金を明らかに下回っていたため、労働者は差額を請求できることをご説明いたしました。

なお、割増賃金請求権についても2年間の時効が適用されますが(労基法115条)、使用者による時効の援用については権利濫用とされる場合があります(日本セキュリティシステム事件・長野地佐久支判平11・7・14労判770号98頁)。さらに、割増賃金不払いが不法行為にあたると判断された場合には、不法行為の時効(民法724条;損害・加害者を知ったときから3年)が適用されます(杉本商事事件・広島高判平19・9・4労判952号33頁)。

もっとも、基本給がいかに高額であっても、そこに割増賃金が含まれているとして扱うことは労基法37条に違反しますので、注意が必要です。改正前の労基法では2割5分以上とされていた割増賃金について、月60時間を越えて労働させた場合につき、60時間を越えた部分の割増率が平成22年より5割以上に引き上げられていますのであわせて確認しておきましょう(労基法37条1項)。

(労基法37条1項)使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を越えた場合においては、その越えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

ただし、労働協約・労使協定により割増賃金の一部を法定外年休の付与に代えることは可能です(同条3項)。また、中小企業には当分の間、37条1項は適用されません(労基法138条)。なお、適用を除外された中小企業は割増賃金の一部を法定外年休に振り替えることはできません。ここで言う中小企業とは、以下の表のとおり、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」から判断されます。

37条1項ただし書の適用を除外される中小企業※

業種 資本金の額または出資の総額 常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他 3億円以下 300人以下

※平成22年4月施行から3年を経過後に、中小事業主に対する猶予措置について検討が加えられ、その結果にもとづいて必要な措置が講じられることになっています。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

会社や親睦会が金銭を貸し付けている従業員の退職に関する事例

会社が金銭を貸し付けている従業員が退職するときは、貸付金と未払給与・退職金を相殺することがあります。これについては、労働基準法上、賃金全額払い原則というものがあり(労基法24条)、給与・退職金と貸付金を相殺するためには、従業員の事前の同意が必要といわれています。そこで、当法人では、借用書等に、予め相殺を承諾する文言を入れておき、退職時にも同意書をもらうなどの対応をお勧めしています。

それでは、会社ではなく、従業員親睦会等の関連団体が従業員に金銭を貸付けている場合、会社はどのように対応すればよいのでしょうか。

この場合も、借用書等に予め相殺を承諾する文言をいれ、退職時に同意書をもらうなどの対応が必要です。問題は、従業員と親睦会の間でどのような合意をしても、賃金全額払い原則との関係で、会社は従業員に対して賃金全額を支払う義務を負っているという点です。そのため、会社は、特定の従業員に給与を支払うかわりに親睦会等への借入金を弁済しても、この従業員に対して重ねて給与を支払わなければならない、ということになります。このような状況に陥らないためには、会社は、その従業員から、親睦会への弁済について依頼を受ける必要があるのです。

そこで、当法人では、親睦会等の関連団体から会社従業員に貸付をするにあたっては、親睦会と従業員の間だけでなく、会社と従業員の間でも、退職時の未払給与を親睦会への借入の弁済にあてるという合意書や、依頼書、申込書等をもらうように助言しています。

審判・和解の当日は、従業員の要望も考慮しながら、会社にとって不当な不利益にならず、かつ適法な調停・和解条項を作成しなければなりません。この場合は、労働法はもちろん、債権譲渡や債務引受、求償や代位等の債権法の正確な知識や、これらをめぐる税務の基礎的な知識が必要となります。また、労働審判や和解はタイミングを逸すると紛争が拡大するため、その場その場で重要な判断が要求されます。退職をめぐる労働紛争は、一般的に、会社担当者と弁護士の協同が不可欠な事件類型であるといえます。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

共同企業体構成員の連帯債務に関する解決事例

共同企業体構成員の連帯債務
参照条文 商法511条1項

企業取引、とくに建築請負契約では、複数の企業が共同で事業を受注するため、共同企業体(ジョイント・ベンチャー)という組合をつくることがあります。

この場合、取引の主体は共同企業体ですから、契約書の当事者欄や手形の振出人欄には、「AB共同企業体代表者A」などと記載されています。この場合、共同企業体の構成企業は、商法511条1項により、事業に関する債務を連帯して負担します。

ところが、まれに、何らかの事情で、共同企業体の事業と思われる工事について、代表会社の単独名義で下請工事が発注されていたり、代表会社の単独名義で手形が振り出されていることがあります。このような場合であっても、通常どおり工事が行われ、代金が支払われている間は、問題が生じることはありません。しかし、ひとたび代表会社が倒産すると、下請企業は、共同企業体の構成員である他の企業に対しても代金等を請求できるかどうかという問題を生じます。

このように代表会社名義で手形の振出しがあり、代表会社が倒産した事案で、共同企業体を構成する他の企業を被告として請負代金請求訴訟を提起した事案があります。この訴訟では、被告は当該手形が単独名義であることを根拠として、当該工事が共同企業体の発注であることを争いました。たしかに、他の契約書、発注書等はいずれも共同企業体名義で作成されており、この手形のみあえて単独名義で発行されている意味を考えると、代表会社はこの工事を共同企業体の事業としない意図であったのではないかという疑いがありました。

そこで、我々は、共同企業体が受注している工事と代表会社が発注した工事の内容を詳細に検討し、使用された材料に至るまで詳細に特定して、手形発行に係る工事が共同企業体としての事業に関するものであることを立証し、請負代金の大半を回収する勝訴的和解に至りました。
何度も現地を訪問し、行政文書の開示請求を行うなど、地道な立証活動が成果に結びついたという点で、企業法務における弁護活動の基本を学んだ事件でした。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

動産売買先取特権に関する解決事例

動産売買先取特権に基づく債権差押(物上代位)
参照条文 民法704条

A社が、B社に対して売掛債権をもっているときに、B社が倒産してしまうことがあります。
このようなとき、A社は、他の債権者に先んじて、B社に売った商品を差し押さえることができます(これを、「動産売買の先取特権」といいます)。
ところが、A社がB社に売った商品が、全部C社に転売されているような事案では、A社が取り戻すことができる商品がありません。とくに、商品がA社、B社を通さず、メーカーから直接C社に納品されているような事案では(このような取引を「直送型」ということがあります)、A社がB社から商品を回収できる見込みはほとんどありません。

当事務所でも、A社の立場からご相談を受けることがございます。ある事例では、全商品が直送型で取引されており、B社の倉庫には、A社が差押えるべき商品がまったく残っていませんでした。そこで、我々は、A社が売った商品のかわりに、B社がこれを転売して得たC社に対する売掛債権を差押え(これを、「物上代位」といいます)、A社の売掛金の大半を回収することに成功しました。

この種の事案では、C社がB社に代金を支払う前に差押えを完了する必要があり、いかに迅速に裁判所の決定を出させるかが決め手となります。そして、裁判所が差押決定を出すにあたっては、A社がB社に売ったものと、B社がC社に売ったものが同一かどうか、その証明の成否が判断の決め手になります。本件のような「直送型」の取引では、AB間取引、BC間取引で商品がまったく同じ動きをするので、商品の同一性の立証はそれほど難しくないことが多いのですが、現実に取引されている商品と伝票とが異なるルートを通っているため、ときに現実の商品の移動と伝票上の記載に齟齬が生じている場合があります。とくに、メーカーと商社の間で伝票の記載や規格の記載、数量の記載が微妙に異なっている場合などでは、裁判所が同一性の認定に躊躇をすることがあります。

本件でも、同じ問題がありましたが、当法人の弁護士が、裁判所との折衝を繰り返して論点を整理し、会社担当者と協力して丹念に資料を集めることで、かろうじて支払前に売掛金の大半を差押えることができました。本件は、会社担当者の初動対応が適切でなければ、間に合わない可能性がある事案でした。当法人にとっても、事件解決が依頼者と弁護士の協同作業であることを学んだ、企業法務における教訓的事件です。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

「セクハラ」に関する事例

A社内でセクハラ行為があったとして、地域労組から団体交渉の申入れがありました。
当法人の弁護士2名が企業側代理人として団体交渉に参加し、労働組合と折衝して和解を成立させています。 本件では、セクハラ行為の有無が正面から争点となりました。

本件でもそうでしたが、しばしば、労働組合は、「被害者がセクハラだと思ったのだからセクハラだ。」という主張をすることがあります。しかし、当事者の主観だけでセクハラかどうかが決まるということはありません。まずは具体的事実関係を精査し、被害者とされる労働者が受けた不利益、就業環境の悪化などの客観的事情を考慮することが必要です。そのうえで、本件では、平均的な労働者の感じ方を基準として判断すべきであるという厚生労働省の解説を引用して、慰謝料請求を事実上撤回させることに成功いたしました。

ほかにも、団体交渉に先立って、時間、場所、参加人数の調整が難航することがあります。 どの程度であれば誠実な対応といえるのか、どの程度であれば不当な交渉拒否に当たるのかの判断は難しいものがあります。早い段階から専門家を交えて対策を練ることをお勧めします。

用語説明 : セクハラ(セクシャルハラスメントの略称)

アメリカから輸入された概念で日本では1980年代末ごろから用いられるようになりました。 セクハラ行為には大きく分けて「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2種類に分けられます。
具体的なセクハラ被害というのは、 ・体を触る ・性的関係を強要する ・卑猥な言葉を多発する ・異性関係の噂を社内に流す ・性的経験・異性関係をしつこく聞く といったような言動を職務立場を利用して行い、拒絶した相手に対して減給や解雇といった不利益を与えたり、本人と特定できるような文書や写真を社内に貼ったり知人等にFAXを流すといった嫌がらせをしたり脅かしたりすることを言います。
弁護士 杉浦 恵一

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

「懲戒解雇」に関する事例

懲戒解雇した労働者から不当解雇を主張されている事案において、会社側に立ち、事案の解決に携わりました。当該事案では、多数回にわたる本人および相手方らとの交渉を経た上、団体交渉を行い、依頼者に納得していただける内容での和解を締結しました。

労働法においては、解雇は、客観的に合理性を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したのとして無効とするという解雇権濫用法理というものが確立されており、勤務成績や勤務態度等の不良を原因とする懲戒解雇をすることは、それだけで潜在的な紛争を抱え込むことになります。
そして、これが顕在化した場合には、労働審判を申し立てられる等、長期的な紛争に巻き込まれる可能性も十分にあります。
したがって、このように裁判所を介した手続きになる前に、早期解決を図ることは企業にとっても大きなメリットとなります。

用語説明 : 懲戒解雇

企業秩序を著しく乱した労働者に対して行う制裁罰として行わる処分で、その中でも最も重い処分としての解雇です。なお、公務員の場合は、懲戒免職と呼ばれる。

用語説明 : 解雇権濫用法理

客観的に合理性を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したのとして無効とするというもの。

※プライバシー保護のため、事例の趣旨に影響を及ぼさない範囲で内容を変更して紹介している場合がありますことを、ご了承ください。

ご相談予約はこちらまで/お電話でのお問い合わせはこちら/TEL.052-231-2601/相談時間/平日 9:00-18:00/土曜 9:30-17:00/夜間 火曜・水曜 17:30-21:00/ご相談の流れはこちら

ご相談の流れはこちら