パブリシティーの権利

1.初めに

ここでは、パブリシティー権について述べます。

パブリシティー権とは、 肖像等が商品の販売等を促進する顧客誘引力を有する場合において、その顧客誘引力を排他的に利用する権利と定義されます。 具体的(最一小判H24.2.2 民集66巻2号89頁)には、ある芸能人の写真を雑誌に掲載することによってその雑誌の販売量が増えることが考えられます。このような写真掲載を無断で行われない権利のことです。つまり、基本的には、著名人にのみ認められる権利ということになります。ただ、この権利が法律により保護されるか、保護されるとしてどの程度保護されるのかということについては争いが多いです。以下では、近年の裁判例の動向を中心にパブリシティー権についてみていきます。

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2.パブリシティー権の有無について

⑴ 否定例

・最二小判H16.2.13 民集58巻2号311頁(ギャロップレーサー事件)
本判決は、有名競走馬の名称をゲームソフト上において無断使用した事例についてのものです。ここでは、当該馬の名称のパブリシティー権が明確に否定されています。

⑵ 肯定例

・最一小判H24.2.2 民集60巻2号89頁(ピンク・レディー事件)
本判決は、芸能人の写真を雑誌に無断で掲載した事例です。ここでは、パブリシティー権を、顧客誘引力を有する肖像等について、当該顧客誘引力を排他的に利用する権利と定義したうえで、パブリシティー権の存在を明確に肯定しました。

⑶ まとめ

以上からすると、まず、人の肖像についてパブリシティー権が肯定されるのが明らかにされた一方で、物の肖像については否定されるということがわかります。
以下では、パブリシティー権が肯定される場合において、どのような要件で保護されるのかについてみていきます。

3.パブリシティー権の保護要件

パブリシティー権が認められるとしても、どのような要件で当該権利の侵害が認められるかについては、下級審裁判例(東京地判S51.6.29マークレスター事件、東京地決S53.10.2王選手記念メダル事件等)がそれぞれ個別の判断を下してきました。

この中で、上記に挙げた、ピンク・レディー事件が、最高裁として初めて明確な基準を打ち立てました。それは、

①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客誘引力の利用を目的とするといえる

場合にパブリシティー権侵害を肯定するというものです。

本判決以降は、この判断基準に従って、パブリシティー権侵害の有無を判断する下級審が増えています。

4.パブリシティー権侵害があった場合の効果

⑴ 損害賠償

パブリシティー権侵害があった場合に、まず考えられるのは損害賠償を請求することです。
これにより、自らのパブリシティー権を不当に侵害されたことによって生じた損害(例:侵害行為がなければ、得ることができていたであろう利益としての売上等)を賠償してもらうことができます。なお、具体的な額については様々な事情が考慮されなければなりません。その一部としては、肖像等の使用方法・販売価格・販売部数・当該出版物の価格等が挙げられます。(東京地判H25.4.26 ENJOY MAX事件)

⑵ 差止請求

「芸能人の氏名・肖像がもつかかる顧客吸引力は、当該芸能人の獲得した名声、社会的評価、知名度等から生ずる独立した経済的な利益ないし価値として把握することが可能であるから、これが当該芸能人に固有のものとして帰属することは当然のことというべきであり、当該芸能人は、かかる顧客吸引力のもつ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利を有するものと認めるのが相当である。したがって、右権利に基づきその侵害行為に対しては差止め及び侵害の防止を実効あらしめるために侵害物件の廃棄を求めることができるものと解するのが相当である。」として、差止請求を認めた裁判例もあります。(東京高判H3.9.26 おニャン子クラブ事件。ただし、人格権の侵害として認めたものではなく、あくまで財産的権利の侵害としてのみ認めている。)

もっとも、差止請求については、差止される側の表現の自由への制約という側面が非常に強いこともあり、かなり厳しい要件が課されるものと考えられます。

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