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VOL.2 2013/12/20 【パワハラ ~拒否することが難しい場合は、任意であっても不法行為と判断されます!~】

本号の内容

  • パワーハラスメント カネボウ化粧品販売事件から学ぶ
  • 編集後記

パワーハラスメント カネボウ化粧品販売事件から学ぶ

弁護士 浅野了一

年末、仕事納めにむけて、イベントが多い時期になっています。

コミュニケーションを円滑にする目的でレクリエーションや余興が催されることがありますが、
職務とは無関係に心理的抵抗の大きい指示を出すと、仮にその時点では相手が不満そうな様子をみせていなくても、
パワハラ、不法行為であると判断されかねませんので、注意しましょう!


その例として、カネボウ化粧品販売事件をご紹介いたします。

事件の概要

美容部員として勤務していたXに対し、3人の上司が、会社主催の研修会で、
Xの目標未達成を理由にコスチュームを着るように指示し、着用させた上で写真撮影し、
別の研修会でXの了承を得ることなく写真をスライドで上映しました。


Xが上司らに対して共同不法行為(民法709条、719条1項)に基づく損害賠償請求、会社に対して使用者責任(同法715条1項本文)に基づく損害賠償請求をそれぞれ行いました。

判決の要旨

参加が義務付けられている定例の研修会において、
商品販売目標を達成できなかった原告ほかの美容部員に対し、被告である上司らが、
罰ゲームとして数種のコスチュームをじゃんけんによって順番に選択させたうえで、
被告に対しては原告が選択した易者姿のコスチューム及びうさぎの耳形のカチューシャを着用するように求め、

その際、

  • 上司の1人からは早く着用するように促した
  • 上司らから着用が嫌ならやめてもいいといった趣旨の発言はされていない
  • 原告には罰ゲームの内容が事前に告知されていなかった
  • 上司らは、原告に意思を確認することなくコスチューム姿を撮影した
  • 後日、別の研修会においてコスチューム姿の写真を原告の同意なく投影した
  • 原告は撮影・投影のいずれの時点においても拒否する明確な態度は見せていなかった

ことなどを、それぞれ認定した上で、上司ら及び会社に対し、原告へ慰謝料として金20万円を払うように命じた(請求額は290万円)。

判旨のポイント


違法性を認めた事情
  • 原告がその場で拒否することは非常に困難であった
  • 会社の業務内容や研修会の趣旨と全く関係ない
  • 別の研修会において、原告の了解なく、コスチュームを着用した写真を投影した
因果関係・損害額について

原告の不眠等の症状の発症時期については、事件の前に診断した不眠の時点と認定して、
原告の請求額を大幅に減額して一部認容。


本件裁判例から学ぶこと


事件の背景には、典型的な労働紛争のパターンがあった。


この裁判例は、厚生労働省のサイト「みんなで考えよう!職場のパワーハラスメント あかるい職場応援団」で紹介されるなど広く知られるようになりました。

しかしながら、公刊されている判例集に掲載されておらず、判決のごく一部の要旨が紹介されているのみなので、「本人が了解しているのに、これってパワハラですか?」という疑問が出されることがあります。

コスチュームも含め実際の事実経過は、かなりひどいものでした。
(原告を含む4名に大分支社内にて、一日中コスチュームを着用させたようです。原告には、ピンクのウサギ耳のカチューシャと易者風の上着と黄色の襟、他の女性には、ミニスカートのメイド服、露出の高いピンク色のワンピース、浴衣にちょんまげのかつら、だったようです。)

また、本件は、裁判の前に原告が大分県労働局にあっせんの申請をしたが、不調に終わったもののようです。 また、本件一審判決は、金額に不満の原告が控訴して、二審の福岡高裁で、和解が成立しました。和解金額は、金100万円のようです。

経過を整理すると次のようになり、
パワハラ

精神的症状の発症

労働局のあっせん不調

損害賠償請求訴訟提起

一審判決
※違法性認定するも、精神的症状について因果関係を認めず原告の請求額を大幅に減額して一部認容判決

金額に不満の原告が控訴、控訴審で和解

労働紛争解決の典型的なパターンが浮かび上がってきます。

「金持ち喧嘩せず」


時間と労力を費用をかけないと、なかなか落としどころでの解決はできないのかもしれませんが、
労働局のあっせんの段階で控訴審での和解と同じ程度の内容で解決ができなかったかとも思います。
あっせん段階では、当事者双方とも強硬な姿勢であることが多々あります。特に労働者側は、強い意見に引きずられることが多く、納得させるのが難しい場合もあります。

しかし本件では、会社側はかなり譲歩しても、あっせん段階、あるいは第一審で和解に持ち込んだ方が良かったのではないか、というのが私の感想です。

「金持ち喧嘩せず」ということわざがあります。
これを英語では、「Agree, for the law is costly.」(訴訟は金がかかるから和解しろ)となります。
結果として、カネボウ化粧品は社会的信用を落としてしまったのです。

パワハラ予防・解決への取組みを推進しましょう!


パワーハラスメントは、個人の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに職場の環境を悪化させるものです。
また、労働者の心身の健康が侵害された場合には、労働契約に伴う使用者の安全配慮義務に違反することもあります。
私は、今後問題となるパワーハラスメントの事案は、本件のような明白なものでなく、もっと陰湿な「部下が立証するのが難しい教育といじめの境界線」のような事案になっていくと思っています。
こうした事件があった一方で、カネボウ化粧品は、「自由と自己責任」の原則に基づく自律した人材の育成で知られており、元代表取締役兼社長執行役員 知識賢治氏は、「人に学ぶ、書に学ぶ、実践に学ぶ」との経営哲学を持たれています。
皮肉にも、本件原告は、2007年度に当時代表取締役だった知識氏から表彰状を受けているようです。 従業員が多い場合、地方の支店の管理職を対象とするパワハラ予防・解決への取組みを推進して行くことは、難しい課題でありますが、

  • 企業全体の制度整備
  • 職場環境の改善
  • パワーハラスメントへの理解推進

が、企業経営の観点からも、企業の社会的責任を果たす観点からも重要です。

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編集後記

12月に入り、本格的な冬の到来ですね。
朝はふとんから出るのに15分かかってしまうので、早めに起きて、ふとんから出ようと日々格闘しています。


さて、師走といえば、お歳暮のシーズンです。
私事ですが、今年入籍をしましたので、親戚の方が増えました。
みなさん遠方なのでお会いすることは年に1回あるかないかです。
せっかくのご縁で知り合った方達なので、せめてお歳暮だけでもと思い、お贈りしました。


「お歳暮を贈る=大人」だと昔は思っていましたが、とうとう私も大人の仲間入りを果たした(?)ようです。


本年もいろいろな人に助けられ、1年を終えることができました。ありがとうございました。

来年もどうぞ宜しくお願い致します。
(中野)

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