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VOL.74 2018/06/05【役員退職金の過大判定を巡る高裁判断】


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vol.74 本号の内容

2018年06月05日

  • 役員退職金の過大判定を巡る高裁判断
  • 編集後記

役員退職金の過大判定を巡る高裁判断

税理士法人名古屋総合パートナーズ

社長を始め会社役員の方が退任される際に退職金を支給することにしている会社は多いと思います。
先日、この役員退職金の額が過大であるか否かを巡る訴訟の控訴審で、東京高裁が一審の判断を取消し、支給した役員退職金を過大とした税務当局側の主張を認める判断をしました。
この先、損金不算入の問題が生じない水準の役員退職金の金額を定めるにあたり参考となる事例ですので、ここでご紹介したいと思います。

そもそもの話しですが、役員退職金は原則としてその金額が確定した事業年度において損金算入することができます。ただし、不当な法人所得の調整が行われることを避けるために、「不相当に高額な部分」は損金算入できないと定められています(法人税法34条②)。

では、その金額の相当性をどのように判断すべきかというと、

①当該役員の法人の業務に従事した期間
②退職の事情
③法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況

等を勘案すると抽象的に定められているだけで(法人税法施行令70条二)、具体的な数値や割合による基準は定められていません。

そこで実務においては、役員退職金を適正な水準とするため、功績倍率法という方法が採られるケースが多くなっています。この功績倍率法は一般に次の算式を用いて役員退職金の金額を決定します。

当該役員の最終役員給与月額 × 役員在任年数 × 同業類似法人の功績倍率

この算式の中の「同業類似法人の功績倍率」という割合が上述の判断基準の③を具体的に示すものとなります。これは、業種や売上規模はもちろん、地域や利益水準なども基準として類似する法人を抽出し、各社の役員退職金額を当該各社役員の最終役員給与月額に勤続年数を乗じた額で除した倍率で、職責に応じて定められます。

ただ実際のところ、他社の正確なデータの入手が困難であるなど、この割合の算定自体が実務上困難なものとなっており、一般に、過去の裁判例や裁決例に基づき、社長で3倍、平取締役で2倍といった数値で計算しているケースも多くなっています。

さて、前置きが長くなりましたが、冒頭の役員退職金の過大判定を巡る訴訟において争いになった問題もこの「功績倍率」に関わるものでした。

納税者(退職金を支給した会社)側は、自社の規程に基づき、後に税務当局側の提示した同業類似法人の平均功績倍率(3.26倍と示されています)の2倍程度の倍率を用いて算出した役員退職金を支給し、全額を損金としました。これに対し税務当局側は平均功績倍率を超える分は不相当に高額な部分として損金には算入されないとの更正処分を行ったため、この処分の取消しを求める訴訟に発展しました。

第1審(東京地裁、平成29年10月13日)は「平均功績倍率を少しでも超える功績倍率により算定された役員退職給与の額が直ちに不相当に高額な金額になると解することはあまりにも硬直的な考え方」であり、「平均功績倍率の数にその半数を加えた数を超えない数の功績倍率により算定された役員退職給与の額は」不相当とはいえないとし、平均功績倍率の1.5倍までは不相当に高額とはみなされないとも受け取れる判断を示しました。

これに対し控訴審で東京高裁は、「類似法人の抽出が合理的に行われる限り,適正額の算定に当たって,これを別途考慮して功労加算する必要はない」とし、また功労加算は「特殊な事情があると認められる場合に限り」考慮すべきものと、更正処分を認める判断を行い、税務当局側の逆転勝訴となりました(東京高裁、平成30年4月25日)。

この高裁の判断から受けとめるべきことは、まず、平均功績倍率を算定するために抽出した同業類似法人の退職金額の中にはもちろん平均金額より高いものも含まれているのですが、この存在は平均以上の功績倍率を用いることの根拠にはならないということです。「1.5倍」と第1審で具体的に出された数値を否定したのも、この数値がこの先の実務で裁判所の示した功労加算の基準として具体的な根拠もなく数値だけが横行することを避けたものと思われます。

また、功労加算を「特殊な事情」のある場合に限るとしたこともこの先の退職金算定の場面で注意すべき点となるでしょう。実務の中では過去の裁判例などにより、1.3倍までの功労加算は認められるといった考えがあり、この旨を役員退職金規程等で定めている会社もあるかと思います(実際この訴訟の原告も1.3倍の加算を行っていたようです)。この功労加算については仮に規程に明記されているものであっても、「特殊な事情」に相当する事実が存在するか、慎重に検討する必要性がより高まったと言えるでしょう。

役員退職金制度は、満期返戻金のある生命保険との組み合わせによる節税効果が期待されることから、これまで多くの会社で採り入れられてきました。ただ、その活用もやはり一定の節度を持って行うことが求められていると改めて考える必要がありそうです。


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編集後記

雨の多い季節になりましたね。

近ごろはひとたび雨が降り始めると土砂降りになってしまうことが多く、それがお休みなら、さらにがっかりした気分になってしまいます。

当事務所では、4月の岡﨑の事務所の開設に伴い、さまざまな仕事が動いておりました。

せっかくのお休みなのにどんよりした気分を引きずるのももったいない。

それなら雨の日ならではの楽しみを見つけてみるのはいかがでしょうか?

今年、私は雨の日には家にあるアガサ・クリスティやアーサー・コナン・ドイルなどイギリスの古典ミステリを中心に再読したいと思っています。

曇り空が多いイギリスを舞台にしたミステリを土砂降りの雨を眺めながら読めば、ぐっと作品世界に入り込める気がするからです。

事前に雨の日用に本屋で本を探してみたり、本を読む時用に、イギリスのお菓子を買っておいたりするともっと楽しく雨の日を過ごせそうです。

こんなことを考えていると、雨がちょっと楽しみになってきました。

皆さまは 自分なりの雨の日を楽しく過ごす方法をお持ちですか?

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