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2025年11月5日
名古屋総合法律事務所
弁護士 杉浦恵一
令和7年5月、某映画監督が、自身が当事者となった裁判に関して、判決の主文以外はあとがきの感想文みたいなところだと発言したことが報道されていました。
判決は、主文(その裁判に関する裁判官の結論を記載した部分)と理由(判決の主文を導き出すことになった認定事実や理屈など)の2つの部分に、大まかには分けられます。
(その他、当事者目録の部分などもあります)
この件で問題になった裁判とは、この発言をした某監督が名誉棄損を受けたとして原告となった裁判で、結果的には被告が名誉棄損行為を行ったことが認定され、某監督に対する損害賠償金の支払いが命じられています。
この裁判では、結果として名誉棄損が認められたものの、その判決の理由中で、裁判所は、原告(上記の某監督)が監督と新人女優という立場が明らかになっている状況で、複数の女優に対して性的行為を要求する文面のメッセージを送信していたことは真実であると事実認定しているということです。
このような裁判所の事実認定があることに対して、判決は主文以外には法的な拘束力がなく、あとがきの感想文のようなものだと述べた、というこのようです。
裁判、判決において、判決の主文には「既判力」という効力があるとされています。民事訴訟法第114条1項では、「確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。」と定められています。「既判力」とは、法律上の定義規定はありませんが、一度確定した判決に関して、再審が認められた場合などの例外的な場合を除いて、その判断・結論は当事者や裁判所を拘束し、以後はそれと矛盾する判断や蒸し返しができない、といったような効力です。
このような意味で、一度した裁判と同じ裁判はできないと言われています。
このような既判力が判決の主文にはあり、判決の理由に書かれた内容には既判力がない、という意味であれば、法律上の解釈として合っています。
また、一般的に判決の理由には法的拘束力がないと言われており、判決の理由中に記載された事実関係については、当事者や以後に裁判をする裁判所を法的に拘束しない、という意味であれば、これもその通りです。
しかし、判決の理由中の認定があとがきの感想文という評価は合っているのでしょうか。
感想を辞書で調べますと、「物事について、心に感じたことや思ったこと」という説明が出てきます。このような点からしますと、かなり主観的なことを指しているように思われます。
裁判の判決中の理由には、裁判所がどのような証拠や根拠から事実を認定したか、裁判所の事実認定の過程なども記載されています。
判決の主文を導き出すためには、前提となる事実が必要になってきます。
法的な三段論法として、「大前提(要件)」→「小前提(事実認定、事実のあてはめ)」→「結論」という流れで結論が導き出されます。
そのため、結論、つまり判決主文を導き出すためには、事実の認定とあてはめが必須となります。
これ以外にも、例えば民事訴訟法312条2項6号では、「判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。」を上告理由と定めております。
理由が単なる感想文であり、重要でないものではないとすれば、上告理由とはされないと考えられる。
現実的にも、裁判では結論(主文)を導くために訴訟の当事者は証拠を提出し、認定されるべき事実を主張していきます。
判決に不服がある場合の控訴等の不服申立の手続きでは、原審の判決の事実認定、理由の点に不備・違法があるということで争っていきます。
このような点からすれば、判決の理由(特に事実認定の部分)は非常に重要な裁判の構成要素であり、これがなければ何を根拠に、どのような理由で判決の主文を導き出したのかが分からないことになります。
従って、判決の理由には法的な拘束力がないという点では、概ねはその通りなのですが、感想文のような主観的なものではなく、裁判では極めて重要な部分を占めることに注意が必要でしょう。
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