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VOL.161 2026/8/08 【企業価値担保権とは】


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vol.161本号の内容

2026年8月6日

  • 企業価値担保権とは

名古屋総合法律事務所
弁護士 杉浦恵一

企業価値担保権とは

令和8年5月25日から、「企業価値担保権」の制度が開始されました。

この「企業価値担保権」とは、事業性融資の推進等に関する法律によって定められた新しい担保権の一種です。

従来の担保権は、物的担保(例えば会社の所有する土地や建物に抵当権を設定するなど)や人的担保(会社の代表者や創業者などが個人で会社の借金を連帯保証する)が一般的でした。

しかし、このような物的担保がなければ金融機関から融資を受けられないとすれば、資産はないが資金が必要な将来有望な会社への融資が難しくなったり会社への融資を連帯保証しなければ融資を受けられず、事業を失敗すると会社と共倒れになってしまうリスクにより起業や融資をためらってしまうという問題点があることが、従前から指摘されてきました。

このようなある程度確実な担保がなければ金融機関からの融資がなされないことは、日本の起業率などが低い一因であると指摘されてきたところです。

このような情勢から、政府は、物的担保や人的担保にこだわるのではなく、企業の将来性に着目した融資・スタートアップ支援などを推進することを目的に、「事業性融資」を広げることを目的にしてきました。

このような目的で、新たに「事業性融資の推進等に関する法律」が制定されました。


なお「事業性融資」とは、同法2条1項で、「金融機関等からの会社に対する貸付けのうち、不動産を目的とする担保権又は第十二条第四項に規定する個人保証契約等(同項に規定する停止条件が付された契約その他の主務省令で定めるものを除く。)若しくはこれに準ずるものとして主務省令で定めるものによって担保されず、又は保証されないものをいう。」と定義されています。

これを分解すると、①会社に対する貸付であること(個人に対する貸付は除かれる)と、②不動産を目的とする担保や人的担保などで保証されていない貸付であること、という2つの要素が見えてきます。

この「企業価値担保権」がどのようなものかは、まだ導入されたところですので、具体的にどのように運用されるか、どのような問題点があるかははっきりしておりません。

「企業価値担保権」は、同法7条1項で「会社の総財産(将来において会社の財産に属するものを含む。第二十五条及び第二百六条第一項において同じ。)は、その会社に対する特定被担保債権及び不特定被担保債権を担保するため、一体として、企業価値担保権の目的とすることができる。」とされていることから、その会社の一切の財産を担保の目的にすることができるようです。

しかし、会社の財産や事業性といっても、有形のものから無形のもの(例えば、商圏、取引先、形にできないノウハウなど)もあります。

そのため、この企業価値担保権を設定したとして、どのように担保権の実行をすることができるのか、その担保権の実行方法には実効性があるのか、という疑問もあります。


同法70条以下で、企業価値担保権の実行方法が定められています。

この内容では、企業価値担保権の実行が開始されますと、管財人が選任され会社の財産処分権などは全て管財人が行使する内容になるようです。

また、同法157条1項では、「担保目的財産の換価は、裁判所の許可を得て、営業又は事業の譲渡によってする。」と定められています。

そうしますと、基本的な企業価値担保権の実行方法としては、その企業の事業譲渡(事業の売却)をして金銭回収するという方法になるようですが、事業譲渡の場合には、当然に企業の従業員との労働契約まで引き継がれるわけではありません。一般的に事業譲渡をする場合には、営業権などの無形財産や有形の財産を含めて譲渡されることが多いと思われますが、その企業で働いていた従業員を引き続き雇いたいという場合には、その従業員と個別に雇用契約を結ぶ必要性があります。

従って、企業価値担保権が実行された場合には、このような従業員の関係がどのようになりそうか、事業を買う側からは十分注意する必要があるでしょう。

例えば、商圏と設備が維持されれば価値があるのか、それとも従業員に特別なノウハウ・技術があり、そのような従業員がいなければ企業価値が大幅に下がることになるのか、このような点も慎重に確認する必要があるでしょう(一般的なM&Aでも同様の観点があります)。


企業価値担保権の導入により、これまで物的な担保や人的な担保に偏重していた慣行が変わるのか、新たに企業をしやすくなるのか、今後の動向が注目されます。

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