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VOL.4 2014/02/07  【メンタル不全で長期欠勤 ~会社の対応義務は?~】

本号の内容

  • 日本ヒューレット・パッカード(諭旨解雇)事件から学ぶ
  • 自社のホームページでイラストを使用する際はご注意を!
  • 編集後記

日本ヒューレット・パッカード(諭旨解雇)事件から学ぶ

弁護士 浅野了一


今回は、正社員の解雇がいかにハードルが高いかを物語る判例から、精神的に病んでいる従業員に対し、適切に対応する重要さを学びましょう。

事件の概要

日本ヒューレッド・パッカード株式会社(以下H社という)において、Xはシステムエンジニアとして、入社後約7年半はとりわけ問題なく勤務を続けていました。


しかし、ある日、上司に対し、 過去3年に渡り日常生活が監視されており、プライバシーが従業員に共有され、嫌がらせを受けているので実態調査をするよう求めました。

その間、Xは有給休暇を使い切り、さらにその後40日間、 会社を休みました。
H社はそのことを理由に、諭旨解雇(退職金はあり) の懲戒処分をした為、Xは、欠勤は「正当な理由のない無断欠勤」には当たらず、 不当解雇であるとして


①会社における従業員としての地位確認
②平成20年10月末日から毎月月額40万8059円の月額給与、同年12月から毎年6月10日、12月10日限り金100万円の賞与の支払い、それぞれ年6分の割合による遅延損害金の支払い

を求めて、裁判を起こしました。


解雇までの詳細な経緯は・・・

  • 平成20年4月8日
  • 被害事実を調査する為、有給休暇を取得し出勤しなくなる。

  • 4月22日
  • 有給が残り少なくなったため、上司のAに対し休職の特例を認めてもらえるよう依頼。

  • 4月30日
  • H社は、休職は許可できないと回答。

  • 5月14日
  • H社の調査窓口となった人事統括本部労務担当部長Bに、調査を依頼すると共に、特例の休暇を認めるよう再依頼。

  • 6月3日
  • B部長は、Xが提出したICレコーダーのデータからは、被害事実が認められないと回答。
    Xは有給がなくなったため、社会貢献休暇を取得する旨を申告。
    しかし、欠勤する正当な理由が認められない為、 休暇の取得は認めず、翌日以降出社してほしい旨を伝えたが、 Xは問題が解決されない限り出社できないと言い、欠勤を続けた。

  • 7月25日
  • 人事統括本部長Cは、 Xに対して正当な理由なく欠勤していること、この状況が続くと最悪の状況を招くこと、直ちに出社するよう命じる内容をメールした。

  • 7月31日
  • Xは出社を始める。

  • 8月25日
  • 賞罰委員会が開かれ、C本部長は、Xに対し、9月30日をもって諭旨退職処分にする旨を通告。

判決

第一審は、Xが欠勤にあたり就業規則所定の手続きを取っていない事から、H社の懲戒事由「正当な理由なしに無断欠勤が引き続き14日以上に及ぶとき」 にあたるとし、棄却しました(東京地裁 平22.6.11判決)。


しかし、第二審、東京高裁では逆転勝訴の判決がでました(東京高裁 平23.1.26)。

H社は上告しましたが、 最高裁は第二審の判断を支持し上告棄却の判決をしました。
(最高裁 平24.4.27 第二小法廷判決)。

判旨のポイント

Xが主張した嫌がらせとは・・・

メイド喫茶のウェイトレスとの間でトラブルになった事がきっかけで、同僚から、男女関係のいざこざをほのめかす言葉をかけられるようになりました。
そのため、何者かにストーキングされ、身辺情報がインターネットの掲示板やSNSを通じて流され、それを同僚らが共有していると考えるようになりました。


そうした被害事実は、Xの精神的不調による被害妄想としたうえで、本人に病気の意識がなく、欠勤を事前に届けられなかった為、無断欠勤にはあたらないとしました。

また、H社は欠勤が続けば懲戒解雇になる等の警告をしていなかった為、解雇は無効としました。

本件判旨から学ぶこと

  1. 本人に精神的な病気の意識がないため、無断欠勤にはならない。

    Xは被害妄想など何らかの精神的な不調を抱え込み、 病んでいってしまった。

    Xが欠勤したのは、そうした精神的不調に基づいていますが、病気の自覚がないため、 本人から病気を理由に欠勤を届け出る事は、期待できません。

    よって、H社の就業規則上の「 やむ負えない理由により事前の届出ができない場合」に当てはまるとされました。

    また、上司に対し休職の特例を認めるように依頼したり、休職の申請方法について尋ねていますので、「適宜の方法で欠勤の旨を所属長に連絡」 したと認めることができます。


  2. 紛争予防のためには、精神的不調への適切な対応が必須。
  3. 判旨は、明確です。
    「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想される

    ・・・ところであるから、 精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で、休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべき

    ・・・Xの出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして、論旨退職の懲戒処分の措置を執ることは精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。」

    Xが自ら病気であると申告していないにも関わらず、H社は理解し、Xの精神的安全に配慮を示さなければならなかったのです。

    Xが精神的におかしいと疑いを抱くことは可能だったのですから、H社の就業規則で設けられている、 健康診断制度や休職制度を用い、早めに専門医を受診させ、診断結果に応じて治療や休職などの対応を検討すべきだったといえます。

  4. 就業規則に規定が有る無しに関わらず、休職の適応が求められる。

    本件判旨は、「私傷病を理由として解雇することが出来るか」という問題に重要な指針を、新たな法規範(判例法)として呈示しました。

    これまでは、

    • 労務提供は労働契約上の労働者の義務であり、健康維持は労働者の責任
    • 病気自体は解雇理由ではないが、健康を害した結果として、労務提供ができなくなったことが、原則として解雇理由となる

    と解されてきました。

    しかしながら、長期勤続制度の下では、病気で一時的に労務の提供ができないということだけを理由とした解雇は相当でないので、「身体の著しい故障のために長期間にわたって業務に堪えないとき」にはじめて解雇事由該当性が生じる、と限定的に解釈されるようになりました。

    本件判旨は、 私傷病で労務を提供することが出来ない従業員に対して、解雇ではなく、 産業医などによる健康診断を実施した上で診断結果等に応じて、治療を勧めた上で、休職等の対応をすることを要求しています。

    これは、就業規則に、 健康診断や休職の規定がある場合はもちろん、就業規則に規定がない場合においても、使用者側が労働契約の締結に伴って負担する信義則上の義務として 、 同様な対応を採ることが要求されているものと考えます。

    もちろん、休職期間中の給与については、 無給として対応することになります。(労働者は、健康保険の傷病手当金を申請することになります。)

    そして、 休職期間満了しても私傷病が治癒したものと認められない時は、就業規則により当然退職扱いとすることになります。

    休職期間満了時に別途解雇する場合には、期間中解雇を猶予したことにより、 その相当性を高めることになります。

  5. はじめから諭旨退職ありきの、切り離しだった?

    Xは、本件解雇後、 合同労組である日本労働評議会に加入しました。
    同委員長である中里好考氏は、本件について、

    「相当いい加減なやり方で、強引に解雇した印象」
    「会社の真の意図は、もうX氏はいらない、 という事だったと思いますね」

    などとコメントしています。

    本件では、欠勤の終了数日前まで懲戒処分の可能性を告知していなかったことも問題です。
    解雇などの不利益を課す場合には、 従業員に翻意の機会を与える事が必要でしょう。

    あまりにもみっともない内容です。

    大企業の人事労務担当者が粘り強く改善に向けた対応を重ねたとは言い難く、本来取るべきだった手続き、「産業医の診断⇒休職」 を回避せざるを得ない上層部の力が働いたのかもしれません。

自社のホームページでイラストを使用する際はご注意を!

こんにちは。 弁護士の杉浦 恵一です。


今回は、思わぬ費用を請求される可能性があるインターネット上のイラストの転載についてご説明します。


まず、イラストに限らず、著作物には著作権があります。

著作権というのは、特許権と異なり、登録しなくても、著作物を作成した瞬間に著作物に対して発生します。

この点で、著作権は登録の制度がありませんので、実際には誰の著作物か分かりにくいという点があります。

また、著作物には必ず著作者がいます。

猫がタイプライターを踏みつけて偶然小説が出来上がったとか、波打ち際で、偶然波が砂を動かして絵が描かれた、といった場合でもなければ、イラストには著作権者がいることになります。

従いまして、インターネット上のイラストを転載する場合には、そのイラストは著作物です。

よほど著作権を主張しないというイラスト(俗に著作権フリーというようです)ということがはっきりしない限りは、自社のホームページに余所から持ってきたイラストを使うことは止めた方がいいでしょう。


では、仮に著作権のあるイラストを自社のホームページに使用し、それが著作権者に見つかってしまった場合、どの程度の金額が請求されるのでしょうか。


著作権の使用料は明確な基準がないため、その著作権者がいくらの値を付けているかによります。

金額の推定規定もありますが、どうしてもどんぶり勘定になってしまいがちです。


ただし、世の中には著作権管理会社があり、様々な著作物を一定の価格で頒布することを業としています。

このような会社が管理する著作物は、使用目的や試用期間、 使用媒体により細かく価格が決められており、著作権侵害がある場合には、その会社の基準に従って損害賠償請求が認められる可能性があります。

そして、ホームページの場合、1サイトではなく、1ページにつきいくらという価格設定も多くありますので、そのような価格設定をされているイラストを、自社のホームページの全てのページに使ってしまっていたら、膨大な金額を請求されかねない危険性があります。

皆様、 インターネット上のイラストの扱いには十分気を付けてくださいね

編集後記

最近、テレビを見ても、新聞を読んでいても、目にする内容は「増税」に関することばかりです。


5%から8%になると決まってから「計算が面倒になるなあ」と、のんきなことしか考えず、気にしていませんでした。

しかし、最近、車の購入を検討するようになって(名古屋で就職して早2年、そろそろほしいなと思いまして)、初めて事の重大さに気づきました!


仮に100万円の車を買うと3万円も余分に払う必要があるのです

100万円に気がとられて大したことないなと車屋では思いました が、帰って自宅で検討していると「1か月分の食費だ!」と気づき、購入時期について悩みだしました。


こうなってくると、「そろそろ布団をやめてベッドを買おうか」 とか「ホームベーカリー欲しいなあ」と、漠然に思っていたことが、「増税前と後ではどうなるんだろうか?」 と気になって気になって仕方ありません!

急にはすべて買えませんし、 しかもすぐに必要なものでもありません。

増税後の方がお得になるという解説者もいて、 決断できないまま2月を迎えてしまいました。

今月には決着をつけようと思います!
みなさんは、どうされますか?             (中野)

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