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VOL.152 2025/7/22 【職場での無断録音の問題】


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vol.152本号の内容

2025年7月22日

  • 職場での無断録音の問題

名古屋総合法律事務所
弁護士 杉浦恵一

職場での無断録音の問題

1.はじめに

民事事件では、原則として証拠能力に厳しい制限はありません。

刑事事件では、違法に収集された証拠を使うことができませんが、民事事件では特にそのような決まりはありません。

民事事件での証拠について、証拠能力の制限はないとされています。そのため、民事事件では様々な証拠を出すことが可能であり、 その評価は裁判官の自由な心証により評価されます。

2.違法収集証拠が問題となるケースと例外

ただし例外として、違法性の程度が大きい場合には、違法収集証拠として事実認定の根拠から除外される場合もあります。

例えば、東京高等裁判所平成28年5月19日判決では、民事訴訟法は自由心証主義を採用し(247条)、 一般的に証拠能力を制限する規定を設けていないため、違法収集証拠であってもそれだけで直ちに証拠能力が 否定されることはないとしつつ、いかなる違法収集証拠もその証拠能力を否定されることはないとすると、 私人による違法行為を助長し、法秩序の維持を目的とする裁判制度の趣旨に悖る結果ともなりかねないため、 民事訴訟における公正性の要請、当事者の信義誠実義務に照らすと、その証拠の収集の方法及び態様、 違法な証拠収集によって侵害される権利利益の要保護性、その証拠の訴訟における証拠としての重要性等の 諸般の事情を総合考慮し、その証拠を採用することが訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反するといえる場合には、 例外的にその違法収集証拠の証拠能力が否定されると解される、と判断された例もあります。

3.無断録音の証拠能力

違法かどうか争われる証拠の例として、無断で録音した場合の録音データがあります。無断で録音した場合ですが、例えば対面で話している会話を忘れないように、又は言った・言っていないの争いにならないように録音する場合には、対面で話をしている以上、無断で録音しても違法とは言えないでしょう。

記憶するか、メモを取るか、録音するかでどの程度の大きな違いがあるかの問題ではないかと思われます。

また最近では通話をする際に前もって録音していると断りのアナウンスが入ることもありますが、通話を無断で録音することも違法とは言いにくいでしょう。これも通話内容の正確性などを確認する目的も考えられることから、違法収集証拠とは言いにくいでしょう。

これに対して、プライバシーや重要な秘密を扱う会議で、予め録音禁止などとされた場合には、その会議内容を無断で録音することは、違法とされる可能性が考えられます。上に挙げた裁判例では、委員会の審議を無断で録音した証拠が争いになっていますが、証拠価値とも比較の上、証拠から排除されています。

4.実際の判例

では、他人の会話を無断で録音する行為だとどのように判断されるのでしょうか。自分と他人との対面の会話であれば録音されてもやむを得ないと考えられますが、他人同士の会話であれば、よりプライバシーの問題が関係してきます。

令和7年6月15日の日本経済新聞では、このような問題を扱った大阪地方裁判所の平成23年12月に判決が出された事例が紹介されていました。

この事例では、ある会社の営業所の休憩室にボイスレコーダーを置き、休憩室での他人同士の会話を録音したという事例でした。その録音された会話には、ボイスレコーダーを設置した人物に対する悪口などが録音されており、設置した人物が名誉を傷つけられたとして、悪口を言った人物(同僚)に対して慰謝料の支払いを求め、裁判を起こしました。

これに対して裁判を起こされた方は、休憩室での無断録音は盗聴であり、そのような無断録音をした録音データに基づいた訴えは認められないとして、逆に悪口を言われたとして裁判を起こした社員に対して、プライバシー権の侵害等を理由に損害賠償請求を求める反訴をした、ということです。

なお、反訴(民事訴訟法146条)というのは、起こされた訴訟に対して、訴訟を起こされた側から、関連する内容の訴えをその訴訟手続内で起こすことができる手続きのことです。ここでは、訴えた側が逆に訴えられたといった話になります。

裁判所は判決で、休憩室には一定のプライバシー権が認められる場所であり、録音が長期間、網羅的にされたことなどを総合的に考慮して、著しい権利侵害があるということを認め、ボイスレコーダーを設置した社員の方が賠償金を支払うことになったということでした。

このように無断録音にも状況、場所などの違いにより、証拠として採用されるものか、もしくは違法収集証拠だとされるかの違いがありますので、プライバシーを考えると第三者間の会話の録音には注意が必要でしょう。


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