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2025年8月4日
名古屋総合法律事務所
弁護士 杉浦恵一
裁判・訴訟は、何らかの紛争に決着をつけるために行われます。紛争がある以上、紛争の当事者間の関係は悪化しており、当然にお互いが相手方を非難するような主張がなされます。
憲法上、裁判を受ける権利が保障されており、適正な裁判を受けるためには当然、必要な主張をすることや、必要な証拠を提出することが認められる必要があります。
他方で、表現の自由にも言えますが、あらゆることが何でも許されるというわけではなく、どうしても一定の制約が発生します。
一例として、裁判・訴訟では相手方当事者を非難・攻撃することになりますが、どのような非難・攻撃でも許されるのでしょうか
ここでは、裁判・訴訟での主張や陳述書の提出が、名誉棄損などになるかどうかという問題を見ていきたいと思います。
まず刑法上の名誉棄損は、刑法230条1項で「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」と定められています。
この条文を見ますと、①公然と行われること、②名誉を毀損する事実を摘示すること、の2点が問題になります。
訴訟は原則として公開ですので(憲法82条1項「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」)、閲覧制限がされていなければ、原則として裁判の資料を誰でも見ることが可能です。
刑法上の名誉棄損罪における「公然」とは、一般的には不特定または多数の人にその事実が伝わる状態だと解釈されています。
しかし現実には、一般の人が、知らない人同士で行われている裁判の資料を見ることは稀です。この点からしますと、仮に名誉を毀損するような主張や書面を提出したり、証拠(陳述書)を提出しても、不特定又は多数の人には内容が伝わらず、刑事上の名誉棄損は成立しない可能性はあります。
では、民事上の問題はどうでしょうか。名誉棄損(もしくは名誉感情の侵害)がされた場合には、慰謝料を請求される可能性があります。
他方で、裁判・訴訟では相手方を非難・攻撃し、自分の権利を防御することも重要な要素になってきます。
このような点のバランスをとるため、過去の裁判例では、一定の場合には裁判中の主張や証拠提出に関しても、名誉感情の侵害等による慰謝料の支払いを認めるように考えています。
一例を挙げますと、
東京地方裁判所 平成18年3月20日判決
準備書面及び陳述書により相手方当事者の名誉を毀損したとして、損害賠償が請求されました。
これに対して裁判所は、提出された書面や陳述書の内容・表現により、原告の社会的評価を低下させるような事実が摘示されたとしつつ、訴訟上の主張・立証活動を、名誉毀損・侮辱に当たるとして損害賠償を認めることについては、相手方の悪性主張のための正当な訴訟活動を萎縮させて民事訴訟の本来果たすべき機能を阻害することもあるから、慎重でなければならないが、訴訟の当事者が、相手方の悪性立証に名を借りた個人攻撃に野放図にさらされ、訴訟以外の場面においては名誉毀損行為として刑罰や損害賠償の対象となる行為にも、訴訟の場面においては相手方の動機いかんに関わらず耐えなければならないという状態が恒常化することも、相手方当事者からの不当な個人攻撃をおそれる者が訴訟の提起や正当な応訴、防御活動に消極的になり、ひいては民事訴訟の本来の機能を阻害するおそれがあることにも留意しなければならず、主要な動機が訴訟とは別の相手方に対する個人攻撃とみられ、相手方当事者からの中止の警告を受けてもなお訴訟における主張立証に名を借りて個人攻撃を続ける場合には、訴訟上の主張立証であることを理由とする違法性阻却は認められないとしました。
結果としてこの件では、記載の用語・表現振をもっと客観的な落ち着いた表現を採用することが可能なのに、ことさらに刺激的・攻撃的な用語・表現が繰り返し多用されており、訴訟行為の名を借りて原告に対する個人攻撃を行っていると推認されてもやむを得ない程度に至っているとして、慰謝料の支払いが認められました。
大阪地方裁判所 平成30年1月11日判決
名誉毀損の内容・表現を含む内容の陳述書を作成し提出した行為により名誉を毀損され、名誉感情を侵害されたという理由で、不法行為に基づく損害賠償請求が請求されました。
これに対して裁判所は、作成者があえて内容が虚偽の陳述書を作成して実態の解明を阻害することが許されないことはいうまでもないが、その真実性の要請のみを過度に重視すべきではなく、仮に訴訟において書証として提出された陳述書に、当事者等の社会的評価を低下させる事実や当事者等の名誉感情を害する事実が記載されている場合に、その事実が裁判所に認定されなかったときやその事実と相容れない事実が裁判所によって認定されたときに、その陳述書を作成し、訴訟において書証として提出する行為が直ちに違法と評価されるとすれば、陳述書の作成者は自己の認識にかかわらず裁判所によって認定されることが確実と思われる事実しか記載しなくなるため、陳述書の機能が失われるとともに、当事者の立証活動に大きな萎縮的効果が生じ、実態の解明を困難にするなど、民事訴訟の運営に支障を来す事態が容易に生じ得るとしました。
裁判所は、当事者等の社会的評価を低下させる事実や当事者等の名誉感情を害する事実が記載された陳述書を作成し、訴訟において書証として提出する行為は、作成者が陳述書記載の事実の内容が虚偽であることを認識しつつ、敢えて記載して行った場合に限り、違法性を帯びるというべきとして、請求を棄却しました。
このように、裁判所の考え方は、かなり限定的、抑制的ではありますが、名誉棄損・名誉感情を侵害するような表現を裁判・訴訟においてした場合には、損害賠償を認める場合もあります。
どのような争いか、どのような表現かで大きく結論が変わる可能性もありますが、裁判・訴訟でのことだからといって何でも免責されるわけではない点に注意が必要でしょう。
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