弁護士 杉浦 恵一
弁護士 杉浦 恵一
近頃、「マタハラ」という言葉が聞かれるようになってきました。この「マタハラ」とは、「マタニティ・ハラスメント」の略語ですが、その意味は、妊娠、出産、育児をきっかけとして、職場で、待遇・労働環境・労働条件といったものに不利益な扱いを受けたり、肉体的・精神的な嫌がらせを受けることを指します。
昔は、妊娠や出産を機に退職する人も多かったと思いますが、最近では、妊娠・出産のときに休職し、復帰する例も多くなってきたと思われます。
このような妊娠・出産・育児等をきっかけとした不利益取り扱いは、法律上禁止されています。
どのように禁止されているかと言うと、男女雇用機会均等法の9条3項では、
「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業(※注:産前休暇のこと)を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定(※注:産後休暇のこと)による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
と定めています。
他の法律でもありますが、代表的にはこの規定が参照されることが多いでしょう。
この条文中、厚生労働省令で定めるものは、その施行規則2条の2によって定められています。内容はいくつかの項目に分かれていますが、施行規則2条の2の9号で、「妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかつたこと又は労働能率が低下したこと。」も不利益取扱が禁止されることに含まれていますので、注意が必要です。
そして、男女雇用機会均等法の9条4項では、
「妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」
と定めています。
妊娠中の女性労働者と出産後1年間を経過しない女性労働者は、解雇をされても原則として無効だとされています。
但し書で、妊娠・出産等を理由とする解雇でないことを証明したときには、例外的に解雇できることになっていますが、あくまで例外ですので、実際にはかなり難しいのではないかと思われます。
厚生労働省のホームページには、「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」が掲載されています。
例えば、能力不足による不利益取扱いの場合には、男女雇用機会均等法により、妊娠や出産に起因する症状により労務の提供ができない場合や労働能率が低下したことを原因として、不利益な取り扱いをしてはならないとされています。
そのため、妊娠後になって初めて能力不足が指摘されるようになったのでは、妊娠を理由とする不利益取扱いとみなされてしまう可能性が高くなってきます。
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